第二幕その六
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ンに答える。
「全ての世を包むその国に私が行かないことはない」
さらに言う。
「トリスタンが行く世界に私もまたこの心だけで向かうだから」
彼はイゾルデのその言葉に無言で頷いた。メーロトはそれを見て目をさらに怒らせそのうえで既に抜いているその剣を彼に突き出してきた。
「弁明はないのだな」
「この通りだ」
剣には臆してはいなかった。
「これでわかる筈だ」
「卿は王の名誉を汚した。それを許すことはできない」
「卿はあくまで王への忠誠に生きるのだな」
「それ以外に何がある」
メーロトの今の言葉、そこには絶対の信念があった。
「私は騎士だ。コーンウォールの」
「だからだというのだな」
「何度でも答える。私はコーンウォールの騎士だ」
やはり彼も引かない。
「だからこそだ。王の為に」
「昼の世界の摂理」
だからといってメーロトを批判する素振りはなかった。
「私は。その摂理を拒む」
言いながら剣を抜いた。
「私は夜の世界に生きる者」
「ならば裁きを受けるのだ」
メーロトは構えに入った。トリスタンもまた。だがメーロトのそれが強いものであるのに対してトリスタンのそれはどういうことか朧なものであった。
「さあ来るのだ」
先にメーロトが剣を出した。当然トリスタンはそれに反撃してくるものと思われた。しかしである。
トリスタンは動かない。その胸にメーロトの剣を受けただけだった。
「何っ!?」
それに最初に驚いたのはその剣を繰り出した他ならぬメーロトであった。
「何故よけなかった、卿ならば」
よけられるというのである。トリスタンの腕を知っていれば誰もがそう思うものだった。
「避けられた筈。それがどうして」
「トリスタン様!」
その胸に剣を受け前に倒れ込もうとする彼をクルヴェナールが何とか助け起こした。
「これ以上はさせぬ!我が主は!」
「どういうことだ」
メーロトは己が倒されるのを覚悟していた。だからこそまだ呆然としていた。
「卿は。まことに」
「トリスタン様、イゾルデ様!」
ここでブランゲーネが駆け込んできた。同時にトリスタンの兵達もいる。
「こちらです。早く!」
彼女はクルヴェナールとも合流しそのうえで二人を連れて夜の闇に消え去っていく。王もメーロトも今は彼等を呆然と見送るしかなかった。夜の闇の中に。
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