第二幕その五
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第二幕その五
「御気をつけ下さい。何かが迫っております」
「迫っている?」
「そうです」
ブランゲーネにはイゾルデの声が聞こえていた。
「ですから。もう」
「去れというのね」
「そうです」
こう言うのである。
「小宵はもう」
「二度と目覚めることがないことを祈る」
しかしトリスタンは二人のやり取りを聞いてもまだ夜の世界にいた。
「死が昼を追いやってくれれば」
「昼と死が同じ力で私達の愛に手を伸ばしていく」
彼は言うのである。
「それは」
「我々の愛はどの様な死にも追い払われることはできない」
あくまで夜の世界から離れないトリスタンだった。
「私の前に立ちあらゆるものを脅かしても私は喜んで愛にその全てを委ねるが愛そのものには死の働きも手を委ねることはできない」
「そう。愛には」
「愛の為に喜んで今死ねばどうして愛までが共に死ぬことがあろうか」
彼はイゾルデに言う。
「哀婉の愛がどうして昼と共に終わるのか。愛が決して死なないのならどうしてトリスタンもその愛故に死ぬことができるだろうか」
「けれど私達の愛は」
イゾルデも言う。
「トリスタンとイゾルデの愛である筈」
「そう、その愛は」
「ええ。愛の絆は貴方か私のどちらが死ぬとしてもその死の為に切られはしない」
「その死の為に死ぬのは私達を妨げるものの他に何があるのだろうか」
トリスタンは言葉を続ける。
「トリスタンが常にイゾルデを愛し、永遠にイゾルデの為にのみ生きることを妨げようとしても無駄なこと。離れることなく永遠に一つになり果てなく目覚めず憂いもなく」
さらに言う。
「愛に包まれその愛にのみ生きる」
「私達は離れることなく共に死ぬ」
イゾルデは死の恍惚に憧れていた。
「二人で」
「二人は永遠に一人となり」
今一つとなっていた。
「目覚めず」
「憂いもなく」
二人の言葉はさらに重なり合う。
「名誉もなく愛にのみ包まれ愛にのみ生きる」
「夜が去ろうとしています」
だがまたブランゲーネが告げる。
「もう。夜が」
「夜が去ろうとしている」
トリスタンは彼女の言葉を聞いて全てを失ったかのような顔になった。
「夜が。私達から」
「目覚めるのなら死を」
「昼はやはり私を目覚めさせるのか」
どうしても昼から目をそらそうとする彼だった。
「昼は」
「昼の欺瞞」
そしてイゾルデもまた。
「それよりも永遠の甘い夜が私達には」
「愛の夜こそ」
イゾルデもトリスタンもただ夜を見ている。
「それこそが私達の世界」
「夜の愛の死こそが。目覚める苦しさはもういりはしない」
「私は貴女となり」
トリスタンの心はイゾルデのそれと完全に一つになっていた。
「そして貴方は私となり」
イ
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