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トリスタンとイゾルデ
第一幕その一
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第一幕その一

                    トリスタンとイゾルデ 
                  第一幕  コーンウォールへの船
 アイルランドとコーンウォールを隔てる海。今その海を一隻の船が進んでいた。
 大きく帆も見事な船である。船から船乗りの唄が聴こえてくる。
「目は西の方へ向くが船は東に進む」
 まずはこう歌われる。
「風は故郷に向かって爽やかに吹く。アイルランドのあの娘は今どうしているだろう」
 さらに歌われる。
「帆を膨らませる風は彼女の溜息か。風よあの娘の為に吹け」
「あの歌は」 
 船の奥の一室。そこは船室だがベッドもあればいささかの装飾品も置かれている。そうしたものを見る限りここにいるのはかなりの身分であることがわかる。見ればそこにいるのは黒い、まるで夜の国の女王の様な服に身を包んだ夜よりも黒くそれでいて艶のある長い髪に黒檀の輝きを持つ瞳に白い肌を持つ女だった。顔立ちは幽玄でありこの世のものとは思えぬ美貌があり背は大きい。その美女の言葉だった。
「私をからかっているの?」
 いささか取り乱した様子で顔をあげて言うのだった。何処か金属的な、高い女の声だ。しかしその声を発する顔はやつれ蒼ざめている。まるで妖精の様に。
「ブランゲーネ」
「はい」
 今度は共に部屋にいた緑の服に黄金の髪と青い瞳の女に声をかけた。彼女は黒い服の女よりは小柄で顔は小さくそれでいて彼女よりも大人びていた。その彼女がやって来たのだった。
「どうされました?イゾルデ様」
「私達は今何処にいるの?」
「東のほうに青い光の輪が上がってきました」
 こうイゾルデに告げるのだった。
「船は穏やかに早く東に進んでいます。コーンウォールには夕方に着くかと」
「夕方なのね」
「おそらく」
 またイゾルデに答えた。
「コーンウォールの緑の浜に着きます」
「嫌よ」
 だがイゾルデはそれを聞いて顔を背けた。
「今日でも明日でもそれは」
「ですがそれは」
「堕落した家系、先祖の名誉に値しない」
 イゾルデはその背けさせた顔でまた言った。
「海や嵐を動かす力は何処に。私が使える術は薬だけ」
 嘆きながら言葉を続ける。
「この胸から大きな力は生まれては来ない。躊躇う風よ、私の願いを聞いて」
 上の方を見ての言葉だ。
「戦いの為に荒れ狂い嵐を起こし竜巻を起こして」
「何故そのような」
「この夢見る海を眠りから揺り起こし呻く欲望を海底から呼び起こすのです」
「イゾルデ様」
 ブランゲーネが止めるのも聞かない。
「それ以上は」
「この強情な船を打ち砕きこの船にいる全ての者を飲み込むのです」
「何故今になってそのようなことを」
 ブランゲーネはそんなイゾルデの肩を抱きながら彼女に言う。
「御父上や
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