第二幕その三
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第二幕その三
「ですが今は私よりも甘い喜びを味わった者はいないでしょう。私はクレタからあのかたと共に祖国に戻る」
「そう、その通りだ」
「私の心は小さ過ぎます」
「というと?」
「これ程の喜びには耐えられません」
恍惚として語った言葉だった。
「これ程までの喜びには」
「そのことを今から伝えに行く」
イドメネオはどうしても暗くなってしまう己の心を何とか立ち上がらせていた。
「それでは」
「はい」
彼はそのまま姿を消した。一人になったエレクトラはさらに言うのだった。
「あの恋敵から遠く離れたならばその時こそあの方を完全に私のものに。あの方の全ては私のもの」
こう思うともう己を抑えることができなくなっていた。
「憧れのお方、例え別の恋人の為に」
もう一人の女を見据えていた。
「貴方が私によそよそしくされても私は傷付くことはない。厳しい恋は私をより駆り立てる」
これがエレクトラだった。
「貴方の胸から遠のいた情熱を身近な情熱が追い払う。愛の手はより力を持つもの。そう」
ここでまた言う。
「愛しいお方が側にいれば」
こう最後まで言ったところで遠くに何かを聞いた。
「あれは」
それは調べであった。
「遠くから聴こえるあの心地良い調べは私を呼んでいる。祖国に戻るようにと」
それを感じて港に向かう。するとそこには多くの船乗り達がいた。船も数隻ある。
「これは姫様」
「どうも」
「はい。シドンの地よ」
港からクレタを見やる。
「ここは私にとって涙と苦悩と不幸な恋の場所だった。しかし」
「積み荷はそこだな」
「ええ」
後ろでは船乗り達がせっせと動いている。しかし彼女は今はそれを見てはいない。
「今から持って来ますんで」
「無理はするなよ」
「わかってます」
「寛大になった運命が私をここから連れ出してくれる。だから」
エレクトラの顔は恍惚になっていた。
「私はこのシドンの地を許し。嬉しい門出に際して安らかにここを去り、別れを告げよう」
「海は穏やかだな」
「そうだな」
後ろではまた船乗り達が話をしている。
「今のうちだな」
「そうだ。今のうちにだ」
海を知る彼等は早いうちの出発を望んでいた。
「早く行かないとな」
「ポセイドン様は気紛れだからな」
「全くだ」
「優しい西風よ」
エレクトラはまだ喜びの中にいた。
「御前達だけが吹く冷たい北風の猛りを静めて。心地良い微風だけでいいの」
彼女もまた平穏を願っていた。
「御前達によって愛が四方に」
「むっ、あれは」
「王様だな」
ここで船乗り達の様子が変わった。
「王子様も御一緒だな」
「供の方々も。何かあったのか?」
「戦か?まさかな」
それはすぐに否定された。
「ト
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