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イドメネオ
第一幕その六
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を見て怪訝な顔になるのだった。
「一体どうされたのだ、父上は」
「わかりません」
「ですが」
 彼と共にいる兵士達は首を傾げつつ答えた。
「様子がおかしいですな」
「避けられています」
「何故だ」
 神でない彼にこの理由はわからなかった。
「愛する父上を見つけ出せたのに父上は私を避けられる。何か絶望と恐怖に震えられて」
 呆然として呟く。
「あまりの愛と喜びは今は悲しみに変わっている。神々を、これは一体どういうことなのですか」
 彼にはわからなかった。今はただ呆然とするだけだった。そしてこの時港では何とかクレタに帰還した戦士達が海を見てポセイドンを讃えていた。その荒れ狂う海を。
「海の支配者であるポセイドンよ」
「この世の三分の一を治める神よ」
 この時代世界は天界、海界、冥界に分けられていた。ゼウスが天界、ポセイドンが海界、ハーデスが冥界を治めていた。三人はそれぞれの世界の主神だったのだ。
「今貴方を讃えましょう」
「無事に我等を祖国に戻してくれた貴方を」
 口々にこう歌う。海は次第に治まってきていた。
「二頭立ての馬車の乗り海を駆け巡り」
「伝令のトリトンを従えその三叉の鉾で荒れ狂う波を鎮め」
「素晴らしい海の神々を従えている」
「その貴方を讃えましょう」
「だからこそ」
 彼等は口々に言う。
「貴方に今捧げ物を」
「何でも差し上げましょう」
 彼等もまたポセイドンのことは知っていた。イドメネオにとってどれだけ悲しむべきことか。このことだけは知らず今は宴の中にいるのであった。

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