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イドメネオ
第三幕その七
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第三幕その七

「ですからここは。トロイアの娘である私を」
「何故だ」
「何故ですか、イーリア様」
 クレタの者達がそれを聞いて嘆く。
「どうしてそこまで」
「その御身を捧げられるのですか」
「どうにかならないのか」
 民衆達からまた声があがった。
「このままではイダマンテ様かイーリア様が生贄に」
「どちらも素晴らしいお方だ。それでどうして」
「しかし。御二人が行かなければ」
 どうなるかも彼等はわかっていた。
「イドメネオ様が生贄に行かれる」
「どうしようもないのか」
「偉大なるポセイドン神よ」
 祭司達も懇願に入る。
「どうかお慈悲を」
「この素晴らしい方々に対して」
「是非共」
 この声が神殿、そしてクレタ中を包み込んだ。するとそれを受けてか突如として神殿の奥から厳かな声が聞こえてきたのであった。その声は。
「愛か」
「!?神殿から」
「この声は」
「愛だというのだな」
「ポセイドン神!?」
「間違いない」
 皆その声の主が誰なのかすぐにわかった。
「神の御言葉だ」
「どうなるのだ?」
「愛が勝利した」
 ポセイドンの声は語る。
「イドメネオは王を退くのだ」
「私が王を」
「そうだ。そして」
 ポセイドンはさらに声を続ける。
「イダマンテが王に。イーリアはその妃に」
「私が王に」
「そして私が妃に」
「何と言う奇蹟」
 アルバーチェは今のポセイドンの神託に思わず天を仰いだ。
「偉大なるポセイドンよ。有り難うございます」
「私の愛は消え去った」
 喜びに包まれる世界。しかしエレクトラは一人呻く様に呟くのだった。
「私は何処に行けばいいというの?」
 ここでまた呟く。
「オレストの下に行けというの?無慈悲な神々よ」
 彼女の弟だ。己の母とその愛人を殺した。その為に復讐の神エリスの怒りを買い各地を放浪しこの時はエレクトラに死んだと思われていたのだ。
「では行くわ。私は」
 暗い決意だった。
「貴方のその無残な亡骸を捜しに。このくれたを去り死の毒蛇に首を捉えられるまで」
 こう言って絶望しきった顔で神殿の前を後にした。以後エレクトラをクレタで見た者はいない。
「万歳!万歳!」
「ポセイドン万歳!」
「先王万歳!新王万歳!」
「愛するクレタの民よ」
 イドメネオは皆の喜びの声の中で告げる。
「私の王としての最後の命だ」
「はい」
「それは!?」
「平和はここに訪れた。生贄の儀式は果たされ祈願は届けられた。ポセイドンも他の神々もクレタを愛してくれている。その中で私はその神々の御意志に従おう」
「ではそれは」
「やはり」
「そうだ。新しい王」
 己の側にいるイダマンテに顔を向ける。
「我が子イダマンテにクレタの玉座と全ての権利を譲り
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