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イドメネオ
第三幕その六
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第三幕その六

「これはゼウスの強いお望みです」
「ゼウスの」
「ですからどうか御自身の為すことを思い出して下さい」
 ゼウスという存在は彼等にとっては並大抵の重さではなかった。何故なら彼等の祖でであるみーのすはそのゼウスの息子であったからだ。
「例え我が子を失おうとも多くの神々がこのクレタと父上を救って下さるでしょう」
「このクレタをか」
「そうです」
 また語るイダマンテだった、
「クレタの民は父上の御子」
「その通りだ」
「彼等がいます。それにイーリアもいます」
「イーリアも」
 見れば彼女はトロイア人達の先頭にいた。そこで今にも張り裂けそうな顔でイダマンテを見ていた。
「どうかイーリアを愛して下さい。私がいなくとも」
「うう・・・・・・」
「私は死を恐れません」
 己の覚悟も述べた。
「祖国とクレタに平和と安らぎをもたらすのならば私は喜んで死にましょう。それこそが私の喜びです」
「死こそが」
「そうです」
 決意そのものの言葉を語る。
「私が亡骸を残すことで私の愛するクレタと父上が平穏を得られるのならば」
「我が子よ・・・・・・」
「王子様・・・・・・」
「さあ、早く」
 父に儀式を促す。
「どうかクレタの為に」
「偉大なるポセイドンよ」
 ここで遂に祭司長が口を開いた。
「どうかここでお慈悲を」
「御願いです、そう」
「王子様はどうか」
「この気高いお方だけは。どうか」
「それでしたら、王様」
 ここでイーリアが階段を登った。そうして祭壇の側まで来た。
「私が。生贄に」
「!?馬鹿な」
「イーリア、それは」
 イドメネオとイダマンテが同時に声をあげる。下にいるエレクトラも驚きの声をあげる。
「何を考えているというの?一体」
「その鉾で胸を貫かれるのはその方であってはなりません」
「しかしそれは」
「それは私がです」
 イダマンテの前に立ってまた言った。
「ですからどうかここは」
「駄目だ、それは」
 イダマンテは立ち上がってイーリアに対して言う。
「それは私の役目なのだ」
「私はトロイアの者です」
 しかしこう言ってイーリアはそれでも立つ。
「ですからここは」
「しかし」
 イドメネオは鉾を持つ手を完全に止めていた。
「そなたを殺すことは。私は」
「ですが御自身のお子様をその手にかけてはなりません」
 イーリアの言葉は強い。
「王様、それはどうか」
「我が子を殺すことは大罪」
「人として許されることではない」
 ここでまた民衆達が言う。
「それだけはならない」
「しかし。イーリア様は」
「神は暴君ではありません」
 イーリアはイダマンテの前に立ち毅然として言う。
「どなたも神意を誤解されています。神が望まれているの
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