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イドメネオ
第三幕その四

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第三幕その四

「どうかこのクレタをお救い下さい」
「何はともあれ行くしかない」
「はい、その通りです」
「悲しみは。王にとっては」
 それでも嘆きの言葉を出さざるを得なかった。
「避けられぬものであるのか」
「・・・・・・・・・」
 アルバーチェはそんな王を何とか助けたかった。しかしそれはもう適わなかった。王は打ちひしがれた心で民衆の前に姿を現わした。王宮の前にいる彼等の戦闘には白い髭と髪の老人がいた。
「王よ」
「祭司長か」
「はい」
 彼こそがポセイドンの祭司長であった。
「どうか御覧下さい。残忍な獣がこの清らかなクレタを襲い」
「うむ」
 祭司長の言葉を聞く。
「国中が破壊され民は殺され血に染まっていない場所はありません」
「それは私もわかっている」
「恐ろしい毒を発し民達を喰らっています。私は貴方に御願いがあります」
「あの獣を止めよというのだな」
「生贄ですね」 
 ポセイドンの祭司だけあって彼が何を求める神なのかわかっていた。
「生贄ならば。それならば誰でしょうか」
「誰かか」
「その者を差し出せば。だからこそ神殿に」
「それはだ」
「御存知なのですか?」
「うむ」
 沈痛な声で俯いて答える。
「その通りだ。知ってる」
「ではそれは一体」
「誰なのですか?」
「王様!」
 祭司長に続いて民衆達もイドメネオに対して問う。
「是非お答え下さい」
「御存知ならば」
「我が子だ」
「!?我が子!?」
「まさか」
 それを聞いた皆に驚愕の色が走る。
「イダマンテ様か!?」
「まさか」
「その通りだ」
 その沈痛な顔でまた述べるイダマンテだった。
「我が子イダマンテなのだ。その生贄とは」
「何ということ・・・・・・」
 これには祭司長も呆然とするしかなかった。
「王よ、それは」
「ならぬというのか」
「もう一度ポセイドン神に御願い下さい」
 じっと王を見上げて言う。
「それだけはなりません。我が子を生贄にするなぞ」
「そうだ、それはいけない」
「我が子を生贄にするのはこの世で最大の罪です」
 民衆達も口々に言う。
「それだけは何とか」
「お考え下さい」
「だが。クレタはどうなる」
 それでもイドメネオは彼等に言うのだった。
「今獣が襲われている。私は今まで迷っていた」
「王よ・・・・・・」
「しかし。今決めた。私は決意したのだ」
 確かな声で述べる。
「私は救う。このクレタを」
「ではやはり」
「イダマンテ様を」
「そうだ」
 沈痛だがそこにはもう迷いのない声だった。
「私は生贄を捧げよう。ここでな」
「それでは王よ」
 王の決意が変わらないと見た祭司長は厳かに彼に対して述べた。

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