暁 〜小説投稿サイト〜
イドメネオ
第三幕その一
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第三幕その一

                 第三幕  波は鎮まり
 イーリアは一人王宮の庭にいた。様々な色と香りの花が咲き誇るその庭において。彼女は花々を見つつ一人静かにたたずみそこで言うのだった。
「慣れ親しんだ孤独、愛情深いそよ風」
 相反するものがまず語られる。
「花咲く木々、見事な花々」
 それはこの庭にあるものだった。白や赤の花々が緑の木々や草達から姿を見せている。そこに白い服で身を包んだ清楚な彼女が立っているのだ。
「不幸な恋をしている者が貴方達に話します。この嘆きを」
 彼女が言うのはこのことだった。
「恋に落ちたお方の側にいて黙して愛を偽ること」
 このことを言う。
「これは苦悩する心にとって何と。いえ」
 言葉を止めた。そしてその言葉を変えたのだった。
「心を和ませる西風よ、どうかあの方の下へ行って伝えて欲しい。私のこの想いを」
 今にも張り裂けそうな顔で呟く。
「私の為に変わらぬ心を持ち続けて下さるようにと。そう」
 言葉をさらに続ける。
「真心ある木々よ、花々よ。私の苦い涙を受ける貴方達、あの方に伝えて。これ程の愛はなかったと」
 こう行った時。庭に誰かがやって来た。それは。
「まさか」
「こちらでしたか」
「どうしてここに」
 イダマンテだった。彼は静かにイーリアの側にやって来た。彼女が思いもしなかったことに。
「お別れを告げに来ました」
「ここを発たれるのですね」
「いえ、違います」
「違う!?」
「そうです」
 顔を少し俯けさせた言葉だった。
「私は。これから死にに行きます」
「死ぬ!?まさか」
「今海から現われた巨獣がクレタを荒らしています」
「それは聞いています。ですが」
「だからなのです」
 彼はイーリアに告げる。
「だからこそ私は」
「!?どういうことですか?」
「私はあの獣を倒しに行きます」
「無謀です」
 それはあまりにも無謀だった。イーリアでなくてもわかることだった。
「その様なことは。絶対に」
「いえ、それでもです」
 だがそれでも彼は言うのだった。
「私はクレタの者達の為に行きます」
「お止め下さい、王子様」
「いえ、私は」
 それでもイダマンテはイーリアに告げる。
「クレタの為に」
「なりません、どうか」
 イダマンテにすがるような気持ちだった。
「ここはお下がり下さい」
「下がってそれでクレタの者達が救われますか?」
「いえ、それは」
 こう問われると返答に窮する他なかった。
「ですが私は」
「貴女は?」
「貴方様に留まって欲しいのです」
 今彼女は一人の女として語っていた。
「ですから。ここに」
「姫、しかし貴女は」
「私は思うのです」
 沈痛な顔でイダマンテに語る。
「何
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ