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イドメネオ
第二幕その四
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第二幕その四

「王になるには今からなのだ。それが後の支えになるぞ」
「わかりました。それでは」
「私より、今のそなたよりも」
 厳かさを必死に保ってまた言う。
「さらに立派になるのだ。よいな」
「畏まりました」
「王様」
 ここにエレクトラも来た。恭しく彼に頭を垂れる。
「お別れの言葉をお許し願えますか」
「うむ」
 エレクトラに対しても答える。
「是非共」
「お別れです。そしてクレタと王様に幸があらんことを」
「そなたにもな。それではだ」
 彼はまた我が子に顔を向けた。
「行くのだ。今から」
「ええ」
 こうしてイダマンテはエレクトラと共にクレタを去ることになった。イドメネオはこれで難を逃れたと思った。しかしそうはならなかった。
「何っ!?海が」
「まさか」
 ここで突如として海が荒れだしたのだった。
「荒れ狂っている」
「また急に!?」
「どういうことでしょうか」
「何故。急に」 
 事情を知らない兵士達は呆然とするばかりだった。
「ポセイドンよ、どうして」
「何があったのですか?」
「まさか」
「いや、ひょっとすると」
 しかしイドメネオと共にいる従者達はここで顔を強張らせるのだった。
「あのことで」
「お怒りなのか」
 海は先程までの静寂が嘘の様に荒れ狂い空には雷が鳴っている。稲妻が光り落雷まで落ちる。嵐まで吹き荒び遂にはその海からあの巨獣が出て来た。
「またあの獣だ!」
「何故あれがまた!」
「王よ、まさか」
 アルバーチェが蒼ざめた顔でイドメネオに声をかける。
「ポセイドン神は納得されていないのでは」
「そうか」
 イドメネオは沈痛な顔で彼に応えた。
「誤魔化しは効かないということか」
「くっ、それではどうすれば」
「海が怒っている」
 イドメネオはその海を見つつ述べる。
「ポセイドン神が。私に対して」
「我等に非があるのか?」
「罪人がいるのか?」
 船乗り達は口々に言う。波は港も打っている。それが人を飲み込むようになるのも時間の問題であった。
「だとすれば誰だ」
「誰なのだ」
「私だ」
 イドメネオは俯いて呟いた。
「私だけでよいのだ。罪人は」
「王よ」
「だが何故だ」
 アルバーチェの慰めの言葉は聞かなかった。聞くことができなくなっていた。
「何故イダマンテに。何故だ」
「王よ、危険です!」
「ここは!」
 兵士達が王の周りを取り囲んで叫んだ。
「お逃げ下さい!」
「どうか!」
「駄目だ、逃げろ!」
「ここにはいられない!」 
 獣も波も迫ったのを見て船乗り達も遂に逃げ出しはじめた。
「王様も!ここは!」
「このままでは!」
「私だけでいい筈だ」
 だがそれでもまだイドメネオは虚ろに呟いていた。
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