混成魔法使い
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を放とうとしているのかを悟ったのだろう。
その様子に若干の喜悦を覚えながら右手を振り絞る。
今更ながらに天ヶ崎の動かす鬼神が腕をのばす。
──だが遅い。
圧倒的に、致命的に。遅い。
右の掌に集まりゆく焔を確かに感じながら、古典ギリシア語で編まれた己が唯一放てる最強の呪文を構える。
「"燃える天空……!!"」
右腕を振り下ろし、超高温の炎が周囲の空間ごとリョウメンスクナを飲み込んだ。
『燃える天空』
氷系最強に当たる、彼の真祖の吸血鬼の得意とする『こおるせかい』と対となる火系最強の広範囲焚焼殲滅魔法。
一重に彼がこの大魔法を行使できるのも『こおるせかい』と違い、熱力学第二の法則に逆らうものでは無いため難易度が低いからだ。
あくまで『こおるせかい』と比べて、だが。
伊達にエリートを名乗るだけの技量が彼にはある。
短い時間で編まれたそれは確かにその猛威を奮い、容易く池の水を蒸発させ。周囲で戦いを繰り広げていた幼き戦闘者達の肌を焼いていく。
「凄い…………あれだけの大呪文を一瞬で……」
「あっつ……! 何よこれー!」
「…………」
英雄の息子はその異常とも言える展開速度に畏敬を。
この場に不釣り合いなハリセンを片手に持つ少女は悪態を。
そして白髪の少年が無言の警戒を送ったことを樫束出流は知らない。
ここで自身の運命が決した事を。
そして彼の物語の結末が決まったのも、ここだ。
「はぁ…………はぁ……はぁ…………」
魔力のごっそり抜け落ちる倦怠感を胸に呼吸を整える。
やりきった自信はある。全く見映えのしない戦闘……否、戦闘とも呼べぬそれは確かに目の前の鬼神を屠った筈。
中空に未だ残る火の粉を夜空と共に見る。このまま月見といければ良いのだが、
ウヴォォォォオオオオオオオンン!!!
轟音が耳をつんざく。辺りに舞っていた桜の花弁が散るのを名残惜しく見ながら、今一度現実を直視する。
「──だからゆうたろ? 無駄や、て」
禍々しく三日月に弧をえがく口。
何処までもどんよりと濁った瞳。
その全てが彼女が悪だと言わずとも語っている。
破壊的な迫力が。
破滅的な強さが。
破綻的な美しさが、そこにあった。
天ヶ崎千草が、そこにいた。
その悪の王に従うかの様に佇む鬼神を見て樫束は納得した。
「貴様片手を捨てて……!!」
「安いもんや、こんなの」
それに、と詰まらなそうな顔で天ヶ崎は続け。傍らに浮かぶ今は眠っている西の総本山が長の娘──近衛木乃香に手を翳し。
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