六日目 十一月二十六日(土)
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ああ、それならあたしらの手間が省けていいねぇ」
「楽ちん楽ちん」
「わぉ、それ楽しそう。やろう、やろうっ。一緒にファイッだね」
森島先輩が、このページを読めばいいのよ、と黒い本を差し出した。
ごくりっと生唾を飲み込んで、本を受け取った。
「じゃあ、やってみます」
純一は、騎士のいなくなった魔法陣の前に立った。先ほどの森島はるかの仕草を脳裏に浮かべながら、黒い本に書かれた呪いの言葉を読み上げる。そして最後の一節を読み終わり、先輩がそうしたように、純一も天までも貫けと叫んだ。
「いでよっ、サーヴァントっ」
次の瞬間、魔法陣が再び白く輝き始め……たりはしなかった。何も起こらない。
ははっと夕月先輩が笑った。
「まぁ、こんなものだろうと思ったよ」
「記憶喪失決定」
「ま、待って下さい。きっと効果が遅れてるんですって。あ、だから、まだ、待って」
問答無用に二人の先輩が、純一の腕を左右から押さえつける。
「うーん、橘君、モテモテねぇ。にくいねぇ、きみきみぃ」
「せ、先輩、助けて下さいっ」
森島はるかはとても楽しそうだ。
「さぁ、観念しなっ」
「すぐ終わる」
純一の悲鳴がポンプ小屋を震わせた。
その悲鳴に答えたのかは解らない。今まで沈黙を守っていた魔法陣が再び白く輝き始めた。えっ、純一が思った次の瞬間には、天井から光の矢が落ちてきて、ばちばちと輝く発光体が魔法陣に現れた。光はしだいに弱まっていき、人の形が現れる。ふぁっと広がったのは神神しいばかりに煌めく黒髪。小さくて可愛らしい顔付きとは裏腹に、猛々しい瞳。薄い唇がきりっとしていて、気が強い印象を受ける。肩と胸元を銀色の鎧で守り、その下は白い羽に覆われた帷子(かたびら)を纏っている。腰下には使い込んだ感じの西洋剣がある。現れたのは凛々しい女騎士。
「……似てる」
「え、あの」
女騎士が、力強い瞳で純一を見た。
「質問します。あなたが私のマスターなの?」
純一は自分の見ているものを信じられなかった。だが女騎士の声を聞いて、これが現実だと認めざるを得なかった。
「あ、絢辻さんっ、どうしてっ?」
目の前に立つ女騎士。その顔立ちは、純一のクラスメイトであり、2年A組の天使″と言われる、絢辻司にそっくりだったのだ。
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