第百三十三話 小豆袋その六
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それを承知でだ、羽柴はこう言うのだ。
「都までな」
「先は長いでしょうか」
「ははは、長いと思うから長いのじゃ」
羽柴は弟の今の言葉にあえて大声で笑ってみせた、周りの者達を見ながら。
「すぐと思えばじゃ」
「すぐですな」
「要は気の持ちようじゃ。何、こちらには長槍も鉄砲もある」
「弓もこちらの方が遥かに多いですな」
「何でも全てあるのじゃ」
ものには不自由していないというのだ。
「迫る敵に思う存分浴びせてやろうぞ」
「ですな、それでは」
「景気よくやりましょうぞ」
「日吉殿、それではです」
加藤がその手に十字槍を上に持ちながら意気揚々と言う。
「思う存分暴れて都に凱旋しましょうぞ」
「待て、凱旋ではないぞ」
「あっ、退くのですからな」
「そうじゃ、退きで凱旋もあるまい」
「ですな、負けるのですからな」
「しかし胸を張って戻るぞ」
負けても肩を落とすなというのだ。
「それはよいな」
「肩を落とさずにですか」
「そうじゃ、皆で胸を張って帰るからな」
実際に羽柴は今胸を張っている、そしていつもの人懐っこい笑顔だ、その笑顔で都まで退こうというのである。
こう話してそのうえでだった、羽柴が率いる後詰も金ヶ崎を後にしたのだった。
浅井が兵を挙げたとの報は浅井の忍の者の手によりすぐに一乗谷の義景にも伝えられた、話を聞いた義景は飛び上がって喜びこう言った。
「おお、如何に大軍といえどもじゃ」
「袋の鼠にすればですか」
「倒せますか」
「そうじゃ、倒せる」
こう家臣達にも言う。
「三万もあればな」
「ですか、それでは」
「二万の兵を出しますか」
「うむ、出せ」
実際にこう告げる美影だった。
「まずは金ヶ崎を攻め落とすぞ」
「そして浅井殿の軍勢と共に織田の大軍をですな」
「囲んで」
「そうじゃ、倒すぞ」
「では我等も」
「今より」
「うむ、出陣せよ」
主の座から意気揚々と告げる、だが当の彼はというと。
「ではわしはここにおる」
「殿は出陣されぬのですか」
「一乗谷に留まられますか」
「そうするぞ」
勝てる絶対の好機でもだ、こう言ったのである。
「わしが動くまでもないわ」
「ですが今は千載一遇の好機です」
「織田信長を討つ絶好の機会です」
「しかしそれでもですか」
「殿はですか」
「そうじゃ、動かぬ」
こう言ったのである。
「わかったな」
「ですか、それでは」
「我等だけが出陣します」
「わかったな、では行って参れ」
義景は動かないままだった、かくして。
朝倉の二万の軍勢は家臣達が率いて出陣した、宗滴は一乗谷の己の部屋で報を聞いて無念の顔で呟いた。
身体の調子を崩しているので床の中にいる、そして頭に鉢巻をして上体を起
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