第百三十三話 小豆袋その三
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「しかし朝倉が敗れた時に兵糧を焼いてはどうなる、飯がないまま浅井と戦えというのか」
「だからですか」
「ここは、ですか」
「そうじゃ、退くことじゃ」
万全を期してだというのだ、信長が言うのはそのことだったのだ。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「我々もですか」
「そうじゃ、わしは都まで逃げる」
即座に出した言葉だった。
「よいな、皆も逃げよ」
「ではそれがしがお供します」
「それがしもです」
すぐに毛利と服部が名乗りを挙げた、常に信長の傍を守る二人がだ。
「途中野盗なり何なりが出てもお任せ下さい」
「殿には指一本触れさせませぬ」
「それがしもです」
「それがしもお供させて頂きます」
続いて森と池田もだった、彼等も名乗りを挙げたのである。
「殿、何があろうともご安心下さい」
「我等がおりまする」
この四人が信長の身を守るというのだ、だが話はそれに終わらなかった。
信長は四人の言葉を無言で頷いてよしとしてから家臣達にさらに言った。
「皆退け、しかし後詰を置くぞ」
「そうですな、後詰ですな」
「それは絶対に必要ですな」
「そうじゃ、しかしこの度の退きはただの退きではない」
信長は険しい顔で言っていく。
「浅井と朝倉が傘にかかって攻めて来る、野盗共も大勢出て来るし昼も夜も戦うことになる」
「しかも今は敵中深くです」
「それではですな」
「絶対に生きて帰ることが出来る者だけ名乗りを挙げよ」
家臣を見回して告げた。
「よいな、この退きの後詰を務めても絶対に生きて帰ることが出来る者だけが務めよ」
「生き残れる者だけがですか」
「その者だけが」
「そうじゃ、わかったな」
こう家臣達を見回して告げた言葉だ。
「何があろうと死んではならんぞ」
「今は夜です」
「夜に退きをはじめてですか」
「しかも敵中深くから都まで」
「その後詰となりますと」
誰もがわかることだった、こうしたあまりにも厳しい退きならば生きて帰ることは無理だ、しかし後詰を置かなくては軍は全滅してしまう。
まさに捨て石だった、それにならなくてはならないのだ。
しかしそれと共にこれは武の誉れだ、務めることも名を残すことだった。
早速だ、柴田が名乗りを挙げようとした。だが信長はその彼に顔を向けて厳しい声で告げた。
「権六、御主はならん!」
「しかし織田家の武といえばそれがしです」
「御主、死ぬつもりであろう」
柴田の考えを見抜いている言葉だった。
「言った筈じゃ、必ず生きて帰る者だけが務めよとな」
「だからですか」
「そうじゃ、死ぬつもりの者には務めさせぬ」
絶対にだというのだ。
「決してな」
「左様ですか」
「では殿、退きですしここはそれがしが」
織田家の武のもう一
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