第百三十三話 小豆袋その二
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袋だった、ただ先だけでなく後ろも縛っている。そうした不思議な袋だった。
忍は信長にそれを手渡しそしてこう言ったのである。
「中に入っているのは小豆の様ですが」
「小豆か」
「はい、ただこの袋は」
「ふむ」
「おわかりになられますか」
忍はその覆面は取らない、目だけで信長を見て問うてくる。
「これは一体」
「前と後ろか、それではじゃ」
信長は語るうちにその顔色を変えていった、それまでは穏やかであったが表情を見る間に険しくさせこう忍に言った。
「ご苦労だった、下がれ」
「おわかりになられたのですか」
「市に伝えよ、礼を言うとな」
「礼とは」
「御主に言うのはそれだけじゃ、ではよいな」
「わかりました、それでは」
忍はとりあえずは信長に頭を下げてそのうえで姿を消した、信長はそれを見届けてからすぐに傍にいた毛利と服部に言った。
「すぐに主な者を全て集めよ」
「全てですか」
「では徳川殿も」
「無論じゃ、皆集めよ」
そうしろというのだ。
「無論鬼若子もじゃ」
「ではすぐに」
「ここにですな」
「急げ、一刻を争う」
信長の口調は何時にも増して強い。
「わかったな」
「畏まりました」
毛利も服部も信長の言葉に頷きそのうえですぐに主だった者達を集めた、信長は即座に己の前に集まった彼等にこう言った。
「浅井が裏切ったわ」
「なっ、まさか」
「浅井殿がですか」
「そんな筈がありませぬ」
「よもや」
「いや、間違いない」
信長は唖然とする彼等に険しい顔で述べた。
「市が知らせてくれた、浅井は裏切った」
「そして我等の後ろをですか」
「攻めてきますか」
「そうじゃ、それでじゃが」
ここで信長はまた言った。
「全軍撤退じゃ、都に戻るぞ」
「なっ、撤退ですか」
「そうされるのですか」
「そうじゃ、全軍撤退じゃ」
またしても驚いた家臣達に話す。
「そうするぞ」
「あの、ですが」
「浅井は一万程度、朝倉は二万です」
「対する我等は徳川殿の軍を入れて十一万ですぞ」
充分過ぎる程度戦えますが」
「両方共何なく破ることが出来ますが」
「それでもですか」
「猿夜叉を侮るでない」
浅井の軍を率いているであろう長政を侮るなというのだ。
「あ奴は必ず退路を断ち飯や武具を運ぶ道も塞ぐわ」
「そしてそのうえで、ですか」
「攻めて来るというのですか」
「そうじゃ、若狭は険しい」
その険しさ故に守りやすいのだが大軍の移動にも若狭から攻めることも難しい、だから越前攻めも若狭からは考えなかったのだ。
「あそこに逃げ込むことは出来ぬ」
「では近江ですか」
「あの国から逃げる為にも」
「確かに今越前を攻めれば間違いなく勝てる」
朝倉は滅ぼせるというのだ。
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