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ヴァレンタインから一週間
第27話 龍の巫女
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けた。そのメガネ越しの澄んだ瞳に映る冬枯れの街路樹と主要幹線道路を行き交う車の群れ。そして、冷たい風に吹かれてコートの襟を立てる人々の姿。

 会話の途絶えた二人の間に落ち着いた冬の午後に相応しい雰囲気のみがゆっくりと流れて行く。照明を絞り込まれた店内は喫茶店独特の香り。更に、外界から隔絶されたエアコンにより調整された温かい空気。
 そして、地元のFM局が流す懐かしい音楽が支配する世界と成って居る。

 そう。店内に流れるのは音楽のみ。柔らかい高音域の女性ヴォーカルが優しい演奏に乗る当たり前の恋の歌。本当にそうなればとても素敵な事だと思う、とても幻想的な歌詞を優しい女性ヴォーカルが歌い上げる。

 本当に、愛しい誰かを抱きしめたくなるような、そんな気がして来る……少し昔の流行歌。

 そのような、今晩には、世界の命運を賭けた戦いが行われる事など想像すら出来ない日常を表現するワンシーン。

 ――――頃合いかな。

「有希、これを受け取って貰えるか?」

 ハルファスを起動させ、周囲から俺と有希を認識させ難くする結界を施した後に、テーブルの上に三種類の白い小さな箱を並べる俺。
 ひとつは手のひら大……一辺がおよそ十センチ程度の立方体。もうひとつは、長さが二十センチ程の細長い直方体。そして最後は、両者の中間程の大きさの直方体。

 いや、もっと判り易い表現をするのなら、この箱の中には明らかに何らかのアクセサリーが入って居るだろうと言う雰囲気がありありと伝わって来る小さな箱だと表現した方が良いですか。
 まして、日本人なら、こう言う場合は矢張り形式から入るべきかと思い、趣が有るとは言え、こんなあまり流行っていなさそうな昭和の雰囲気の漂う喫茶店に入って見たのですから。

 正面に座る紫の少女が、彼女に相応しいメガネ越しの澄んだ瞳で、テーブルの上に並べられた三つの箱と、そして、それを取り出した俺を順番に見つめて行った。
 そう。彼女に相応しい、とても冷たい、何の感情も籠らない表情で……。

 そして、

「理由の説明を要求する」

 ……と、短く問い掛けて来たのでした。

 半ば予想していた反応でしたが、それでも軽い落胆に少し肩をすぼめて見せる俺。
 但し、むしろその俺の反応の方に、有希から発せられた雰囲気はやや不可解、と言う疑問符に溢れた物で有った事は言うまでも有りません。

「確かに、有希には装飾品の類で身を飾りたてる必要はあまり無いかも知れないな」

 俺が、ため息に近い息を吐き出した後、そう言う台詞を切り出す。
 但し、彼女が最初に発した雰囲気はむしろ興味に近い色。まして、普段の彼女ならば、興味のない事に関しては、素直に無視をするか、それとも頭から、必要ない、と否定するかのふたつのパターン
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