第42話 生魚は醤油をつけて食べろ!
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使えない為に、治療魔法なんて上等な手段を用いれる筈がないのだ。
無論、それは人や生き物に対して有効な手段であり、この様な無機物には余り効果的じゃないのは明白だったりする。
「しょうがない、やるだけやってみますよ」
半ば投げ槍な感覚でシャマルは修理に取り掛かった。
***
其処は、町の外れにあるひっそりと佇む小さなバー。此処では一日の疲れや心の傷を酒で癒す為にと、客がやってきては酒を飲む場所である。
そして、そんなバーのカウンターに、一人の女性が座り、酒を飲んでいた。
彼女もまた、心に傷を持った女性なのだろう。女の傷は男の傷とはまた違った出来具合でもある。
女が手にしているのはかなり年代の古いバーボンである。強い酒を飲むと言う事は、それだけ心に大きな傷を持っている。と、言う事となるのだろう。
そんな時、すっと女性の隣に誰かが座った。女は目線だけを動かし、隣に座った客を見る。
座って来たのは男だった。彼もまた、酒で心の傷を癒しにやってきたのだろう。
それとも―――
「随分と積極的ね。女の隣に座るなんて、ナンパのつもりかしら?」
女は挑戦的にそう言いながらも酒を煽る。男は黙っていた。黙ったまま、マスターに注文を言う。
マスターは頷き、慣れた手つきでカクテルを作って行く。手馴れた動きだ。マスターの手の動き、腰や体全ての動きだけでそのマスターの力量は測れる。
マスターが女性の前に一杯のカクテルを差し出す。淡いオレンジ色のカクテルにライムのスライスが添えられた一杯のカクテルであった。
「このカクテル……まさか!」
女性が改めて男を見る。男は只、黙って席に佇んでいた。だが、女はその男に見覚えがあった。
そう、女はかつて、この男と淡い恋路を歩いていた事があったのだ。だが、女の両親が勝手に縁談を決めてしまい、二人は止む無く別れる事となってしまった。
その後、縁談は問題なく進む筈だったのだが、その縁談は、相手が仕組んだ詐欺だったのだ。
結果として、女の両親は女を捨てて夜逃げし、女はひとりぼっちとなってしまった。その傷を癒す為にこうして酒びたりになろうとした時、かつての男が来たのだ。
「す、寿司男さん」
女が涙目になり男の名前を呼ぶ。男は無言であった。だが、言葉などなくともその目線だけで分かる。【俺がお前の傷を癒してやる。もう何所へも行くな】と、そう語っているのだ。
「寿司男さん! もう、貴方の元から離れないわ!」
女は泣きじゃくり、男に抱き寄る。男もまた、女をその力強い両手で堅く抱き締めた。もう二度と離れないと、堅く誓い合うかの様に。
こうして、寂れたバーで、一組のカップルが出来上がった。こんな出会いがあるからこそ、このバーには客が途切れないのだろう
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