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万華鏡
第三十五話 厳島神社その五
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「色々あるけれど」
「いい場所じゃない、岡山って」
「確かにいい場所だけれど」
 それでもだというのだ、高見先輩は厳島に向かうフェリーの中で言う。丁度ここで宇野先輩から紅葉饅頭を受け取った。
 そのビニールを剥がしつつここで話題を変えた、その話題はというと。
「負けたくないわね」
「広島に?」
「紅葉饅頭も美味しいけれど」
 今はまだ食べていない、その茶色の饅頭を。
 しかしそれでもだ、その饅頭についてこう言うのだ。
「負けないから」
「黍団子は?」
「美味しいからね」
 誇りを見せて言う。
「紅葉饅頭に負けない位に」
「しかも桃太郎よね」
「桃太郎があげたから」
 犬、雉、猿にである。
「有名になった節はあるわね」
「やっぱりそれが大きかったわよね」
「ええ、桃太郎がいないと」
 桃もその黍団子もだというのだ。
「あそこまで有名になっていないかも。けれどね」
「紅葉饅頭には負けないっていうのね」
「そうよ、こっとにはマスカットもあるのよ」
 葡萄のことも言う。
「それこそいつも食べてきたわよ」
「いつもだったの」
「岡山ではね」
 地元ではそうだったというのだ。
「やたら食べたわ。特に桃ね」
「それって長生きしそうですね」
 桃をやたら食べたと聞いてだ、里香は少し羨ましそうに言った。
「桃ばかり食べてたっていうと」
「あっ、桃は不老長寿っていうわね」
「はい、ですから」
「それね、孫悟空もよね」
「孫悟空って最初凄い桃食べてましたよね」
 霊力のある桃をそれこそ呆れるだけ食べた、一つ食べると八千年長生き出来る様なものをそれこそ山単位である。
「だから不老不死になりましたね」
「そうそう、桃は魔を負い払うし」
「不老長寿でもあって」
「いつも言われていたわ、お母さん達に」
「桃を食べるとですか」
「長生き出来て悪い存在も払えるって」
 そう言われていたというのだ。
「それでいつも食べてたのよ」
「じゃあ先輩も」
「長生き出来たらいいわね」
 ここで里香ににこりと笑って言った。
「悪霊とかにも遭わないで」
「そうですよね」
「孫悟空みたいになるかどうかはともかく」
 冗談も入れて言う。
「それでもね」
「桃はいいですよね」
「いいわよ、幾ら食べても飽きないし」
「幾ら食べてもですか」
「そう、飽きないわよ」
 高見先輩は桃について里香に熱く話しだした。
「だからいいのよ」
「桃はですか」
「マスカットや黍団子もそうだけれど桃は特にね」  
 とりわけだというのだ。
「幾ら食べても飽きないのよ」
「美味しいし長生きも出来て」
「最高の果物だからね」
「蜜柑の方がいいと思うけれど」
 宇野先輩は高見先輩の熱い話に少し戸惑って述べた
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