七章 『氷の学び舎』
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「それにしても、なんだこの臭いは」
人間よりも遥かに優れた五感を持つ彼女は、世界樹前広場に近付くにつれて漂ってきた臭気に少し前から気が付いていた。その臭いは不快そのもので、エヴァンジェリンは眉をひそめて顔を歪ませた。
「だいぶ臭いがきつなってきよったで……鼻が曲がりそうや」
小太郎も鼻を抑えながら顔をひそめている。
嗅覚に限っては小太郎の方が効くらしく、エヴァンジェリンが少し前に臭いに気が付いたのに比べて、小太郎はログハウスからすでに微かな異臭を感じていた。次第に強くなっていく臭気にとうとう嫌気が差してきたようで、げんなりした様子だ。
「全く、それくらい我慢しろこの駄犬。私だって臭くて敵わんのだ」
エヴァンジェリンは小太郎を一喝する。当然、小太郎の「俺の方が鼻は効くんやで!」という抗議は無視だ。
「あーでも確かに、言われてみたら臭いがしてきた気がする」
鼻をスンスンと鳴らしながら、まき絵は同意する。もっとも、人の嗅覚では到底感知出来ないくらい希薄な臭気である事を、エヴァンジェリンはあえて言わなかった。
「それで広場にいる奴を倒したとして、その後はどうするんだ?」
千雨がエヴァンジェリンへ問いかける。今はこうして世界樹前広場へ向かっているが、その後はどのように行動するのが気がかりなようだ。
「さぁな? そいつが何か吐けば良いが……この気候が収まれば御の字だろうな。どの道、アルビレオ・イマが戻ってくるまではなんともな」
その応えに千雨は肩を落とした。
夏休みだというのに魔法世界などというファンタジー世界へ行き、ファンタジーな冒険を繰り広げた挙句に賞金首に仕立て上げられるわ、あまつさえいつの間にか一つの世界の命運をかけた事態に巻き込まれていた。そのうえ念願の麻帆良学園へ帰って来られたはずなのに、今度は魔法世界のみならず人間界の命運の為に銀世界の中を走っているのだ。
せめてもう少しまともで具体的な行動予定が聞きたかった。千雨の心の声は本人以外には聞かれることはなく、虚しく散っていった。
そうこうしているうちに、一同は世界樹前広場に到着した。この広場にはカフェなどもあることから、普段は多くの学生で賑わっている。いわば、学生達の憩いの場の一つである。
しかし、のどかな学生生活や代わり映えのない『日常』は、そこにはない。
一面を覆い尽くす雪と吹き荒れる吹雪。その勢いは道中よりも余程強かった。そして辺りは、日が落ちたとはいえ、やけに暗くて重い闇が霧のように降りていた。
「……」
そしてエヴァンジェリンと小太郎は、悪臭の為か、黙って顔をしかめていた。
一方、二人以外の者達はその臭いに気がついていない。どうやら人間にこの臭いは分からないようだ。
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