七章 『氷の学び舎』
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「誰もいない……と言うよりも何も見えませんね」
夕映が辺りを見回して呟いた。もっとも、吹雪と暗闇の為に視界は劣悪である。広場の中央に存在するはずの、先端が四角錐になっている石柱のモニュメントはおろか、数メートル先すら不明瞭だ。
「ここで立ち止まってても仕方ないし、とりあえず先に進んだら?」
そう言ったアーニャは歩を進めようとするが、エヴァンジェリンがそれを制止した。
「待て、アンナ・ココロウァ。何か居るぞ」
その目線の先には、微かな桃色の光がぼんやりとあった。確かに何かが居るようだ、この暗闇と吹雪の中にも関わらずだ。
次第にそれは近付いてきた。まだはっきりとは見えないが、淡い桃色の光が濃くなっていく。そして同時に、愉悦に満ちた、甘い嬌声のようにも聞こえる。
「えっと……これって?」
和泉亜子は疑問符を付けて口を開いた。
なぜなら、淡い桃色の少女が二人、空中を漂うように踊っているのだ。それも艶かしく、絡み合うようにだ。その動きはある種、妖艶ではあった。
しかし、余りにも怪しすぎる。これで警戒しない方がおかしいだろう。全員がその少女たちの官能的な動きを、怪しむ目で見ていた。
「おい犬っころ。あれを攻撃しろ」
エヴァンジェリンは小太郎へ命令する。しかし小太郎が、警戒を伝える。
「いや、怪しすぎるわ。あんなんに迂闊に手ぇ出す奴おらんやろ?」
もっとも、エヴァンジェリンはそれ以上言わさなかった。小太郎の背中を蹴って、早くしろ、とせっついた。
「ほんま人使い荒いわ、あの人」
愚痴をこぼしながら、小太郎は淡い桃色の少女達へ近付いていく。少女達は小太郎を床へ誘うように、官能的な手つきで手招きをしている。
「女は殴らん主義やけど、しゃあない」
しかし相手は子供な上に、異性よりも戦闘のほうが圧倒的に優先順位が高い小太郎だ。その手招きを、戦闘前の挑発と捉えたようだ。
「いくで?」
小太郎が呼び出した二体の狗神は、二人の少女目掛けて疾走する。吹雪をものともせずに駆け抜ける狗神は、獲物の喉元を噛み千切った。少女らの首元からは血が噴き出し、雪を赤く染める。そして少女らは赤く彩られた雪の床へ倒れ込んだ。
「え、ちょっ! 大丈夫なの!?」
高音・D・グッドマンが、その光景を見て取り乱した。なぜなら、誤って人間を殺害してしまったのではないかと思ったからだ。気候すら変えることのできる魔族ならば、あの程度で倒せる訳がない。それどころか少女の挙動は、人間のそれのようだった。余りにも呆気なかったので、小太郎も最初は高音と同様に人間だったのではと頭をよぎった。
しかし、これまで裏稼業で見てきた魔族の手口を小太郎は思い出した。残忍で狡猾。人の心の隙を好む者
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