DAO:ジ・アリス・レプリカ〜神々の饗宴〜
第一話
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
灰色の空が広がっている。
それを貫かんと高くそびえたつ黄金の塔……あれこそが時計塔――――通称、ビック・ベンだ。
栗原清文は、イギリス、ロンドンの駅を人ごみにまぎれて出てきたところで、それを見上げた。
「でっかいなぁ……今はあそこまでどうやって行くんだろう」
清文が時計塔への生き方を尋ねようと近くの人間に声をかけかけた時。
「清文様」
すぐ横から、英語ではなく慣れ親しんだ日本語で呼びかけられた。
さして驚きもせずにそちらを見ると、そこにはパリッとした黒いスーツの男がいた。オールバックの髪、鋭い目つき、それを覆うメガネ……まさしく『黒執事』と言った風貌の男。
「大門さん。お久しぶりです」
黒執事――――大門新は腰を折り、答えた。
「はい。再びお会いできて光栄です」
「俺はあまり光栄じゃないですけどね。できれば、二度とここには来たくなかった――――」
清文は灰色の町を見渡す。
「それは重々承知しております。しかし――――」
「わかってる。俺は今日のために、ずっと日本にいたんだろ」
「その通りでございます。さ、お姉さまがお待ちです」
大門が通りを指すと、そこには黒いリムジンが止まっていた。
「ずいぶん大がかりですね」
「お姉さまがそうしろと。弟君であられるあなた様を盛大に迎えたいそうです」
「ふん。気に入らないな……」
そうは言いながらも、清文は素直にリムジンに向かう。
わかっていたのだ。
ここに来ることは――――来なければならないことは、何年も前から知っていた。
日本で手に入れた幸せを、いつかはすべて失わなければいけないことも。
出来れば、もう少し時間が欲しかった―――――――
「(琥珀……)」
最後のデートで、お別れのあいさつの意味を込めて、初めて自分からキスをしたとき、目を丸くして驚き、直後に華が開くような笑顔を見せてくれた恋人の顔が脳裏に浮かぶ。もっと彼女の声を聞いていたかった。もっと彼女の笑顔を見たかった。
けれど――――
それはもう、かなわない。
バタン、と、リムジンのドアが閉まった。
*
「大門さん」
「昔のように『大門』でよろしいですよ、清文様。敬語もいりません」
「――――わかった。で……その……小波は、姉貴は元気か?」
「はい。それはそれはお元気でございます。仕事を放り出しては遊び暮らし、すぐに怒られる毎日を送っておられます」
「馬鹿らしいな……まぁ、それが姉貴らしいともいえるが……」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ