第一幕その六
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第一幕その六
「それとも戦いか」
「友として来たのか。それとも」
ヴァルターもビテロルフと同じことを彼に問う。
「敵か」
「タンホイザー、我々はここにいる」
ラインマルの問いは敵か味方ではなかった。
「そして君もここにいる」
「どちらなのだ、君は」
ハインリヒは彼に返答を求める。
「味方か。それとも敵か」
「いや、待て」
しかしここでヴォルフラムが仲間達に告げた。
「彼の素振り、これが高慢の素振りか」
「敵の?」
「そうだ、敵ではない」
一同に告げてからまたタンホイザーに顔を向けて言う。彼はタンホイザーに問うてはいなかった。
「大胆な歌手よ、よく戻って来た。我々の中に君の席だけが空いたままだった」
「そうだ、平和の心があるならば」
「タンホイザー、我々は君を歓迎しよう」
「友人として」
「だから。ここに帰って来るのだ」
「タンホイザーよ」
騎士達に続いてヘルマンも彼に声をかける。
「私も卿を歓迎する。だが」
「だが?」
「卿は何処にいたのだ」
彼が問うのはそのことだった。
「何処にいたのだ、一体」
「遠い世界を」
何故かこう答えるのだった。
「遠い世界で。私はそこに安らぎを見出せなかった」
「休息を得られなかった?」
「それは一体」
「それは聞かないでくれ。だが私は君達と戦う為に来たのではない」
「では我々のところに帰って来るのだな」
「違うのか」
「いや、違う」
首を横に振って彼等に答える。
「私は行かなければならない。ここにはいられないのだ」
「いや、それは駄目だ」
ヘルマンは強い声で彼を呼び止めた。
「ここに留まるのだ。戻るのだ」
「そうだ、ここに留まるのだ」
「我々の仲間として」
「だが私は」
「いや、駄目だ」
タンホイザーは彼等を振り切ろうとするがそれはヘルマンと騎士達によって止められる。しかしタンホイザーの決意は固かった。
「私は。ここにいてはならないのだ」
「何故だ、何故それ程まで拒む」
「ならばどうしてここに戻って来たのだ」
「私はただ前に行くだけ」
ローマの方を見て呟く。
「ただそれだけだ。振り返ることは許されない」
「友よ」
その彼にヴォルフラムが一際強い声で彼を呼んだ。
「待っているのは我々だけではない」
「では誰が」
「エリザベート姫が」
彼は言った。
「姫が待っておられるのだ」
「エリザベートが」
「そう、姫がだ」
またエリザベートという名を出すタンホイザーだった。
「姫が待っておられる。君のことを」
「エリザベート」
彼はその名をまた呟いた。
「姫が待っているのか」
「そうだ、姫もまた君のことを待っておられるのだ」
そしてまた言うのであった。
「君は大
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ