第四十五話
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第四十五話 一緒に飲んで
華奈子は葡萄のジュースを飲んでいた、かなり濃厚な葡萄の味がしてその甘さも強いものだった。その葡萄ジュースを飲んでだ。
隣でやはり葡萄ジュース、濃紫のそれを飲んでいる美奈子に対して小声で囁いたのだった。その囁きの内容とは。
「ちょっと、ね」
「ぎこちないっていうのね」
「気にし過ぎかしら」
どうもという顔でだ、華奈子は囁くのだった。
「あたしが」
「そうね、私にしてもね」
「美奈子もなのね」
「ええ、ちょっとね」
その雅美をちらりと見て言う。
「気にし過ぎかしら」
「ううん、やっぱりクラウン結成してね」
「その時勝負したからね」
「そのことがあるから」
どうしてもだ、そのことが引っかかってだというのだ。
「私もちょっと」
「中々前に出られないっていうか」
「出ないといけないわよね」
「あたしこういう時はいつも前に出られるのに」
華奈子は浮かない顔でこうも言った。
「今はね」
「どうしてもよね」
「ええ、ちょっとね」
葡萄ジュースが入っているガラスのコップを一旦テーブルの上に置いてだ、華奈子は浮かない顔で言うのだった。
「こういうの嫌なのよ」
「やっぱり華奈子は前に出たいのね」
「あたしは前に出ないと駄目な娘だから」
このことを自分でもわかっているのだ、それで言うのだ。
「今もね」
「じゃあ出るの?」
「出たいけれど」
華奈子の本音だ、紛れもなく。
だがそれでもだった、今の華奈子は。
「何か、中々」
「皆もそうよ、今の空気って」
「重いわよね」
「そうね、重いわ」
重苦しい、そう言うべき空気だった。
「この空気何とかしないと」
「じゃあここは」
「出るべきよね」
前、そこにだ。
「そうしないと」
「けれどね」
「どうしてもね」
「出られないのよ」
華奈子は普段とは違いどうしても一歩前に出られなかった、たった一歩がとても遠く重いものになっていた。
第四十五話 完
2013・6・17
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