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タンホイザー
第一幕その一
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い」
 起き上がりつつ言うのだった。
「もういいのだ。愛欲の歌は」
「何を言うのですか」
 ヴェーヌスは怪訝な顔で彼に言葉を返した。
「何を。このヴェーヌスベルクで愛欲を否定するとは」
「その愛欲こそがもういいのです」
 だがタンホイザーはさらに言う。
「それこそが。もう」
「馬鹿な」
 ヴェーヌスも今のタンホイザーの言葉を受けて立ち上がる。そうして彼を問い詰めるのだった。
「貴方は忘れたのですか。どうしてここに来たのかを」
「ヴェーヌスベルクに」
「私は誰にも無理強いはしない」
 ここには彼女の確かな決意があった。
「誰であっても。そして」
「そして」
「ここに来る者は誰もが愛欲を求めて来ています」
 言葉には絶対の自信があった。
「誰一人として例外はなく。だからこそ」
「私もまたここに」
「何年になりましょう」
 タンホイザーを見据えての言葉だった。
「貴方がここに来てもう何年か」
「それは」
「そう、答えられない程長くです」
 これが答えであった。
「それだけ長くいたというのに離れるのですか。あれ程愛欲を求めておられた貴方が」
「日や月もなく天上の優しい星達もない」
 タンホイザーはここで嘆くようにして言うのであった。
「新しい夏がもたらす新鮮な緑の茎もない。春を告げてくれるうぐいすの鳴き声もない」
「その様なものの何がいいのでしょうか」
「貴女が私の為に作り出した幸福な奇跡を讃えよう」
 竪琴を奏でつつ唄う。

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