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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その2:峰を登り
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彼の御蔭で山の咆哮を受けていない絶好の場所を発見する事が出来た。元は動物の塒であったのだろう、吹き込む風を除けばこの厳しい環境とは反対に、人馬共に安堵出来る所であった。幸いにしてまだ高山病には罹っていない。鼻血も出てこないし、気圧で気管が締まったりもしない。ここにおいて慧卓は、干し肉の噛み応え十分な味わいを、まさに身に染みて堪能する事が出来たのであった。
 山登り開始から数日後、リコの活躍の御蔭で、調子を崩す事無く最初の山、標高で言う1000メートル級の峰の入口というべき山を踏破する事が出来た。しかし同時に山の向こう側に広がる、更に険しく連ねている山の峰を見て、慧卓は気が遠くなるような思いを抱いた。嗚呼、遥か遠くのヴォレンド遺跡や平坦温厚なる平原の、何と待ち遠しき事か。哀しさに満ちた短歌を詠いたいような思いで、慧卓はリコの先導で二つ目の山を目指していく。
 ひゅぅひゅぅと吹き抜ける風を縫いながら、慧卓は坂道を下っていく。前を進んでいたリコが慧卓に向かって怒鳴った。

「そこ気を付けて。崩れやすいですよ」
「ああ、みたいだな。・・・リコ、一つ尋ねたいんだが」「何です?」
「お前、今までどんな所を歩いてきたんだ?地図の製作を仕事としているんなら、いろんな場所に行ったりしたんだろ?」
「その話は、今日の寝床を確保してからにしましょう。どうにも雲行きが怪しくなってきました。今晩は吹雪くかもしれません」
「・・・あの雲だな?あの背の高い綿みたいな」

 白い雪空を塗り替えるような、灰を思わせる暗澹とした雲が西から流れてくる。山の天気の変わりやすさといったら凄まじいものがある。今は昔、セラムに来る前、登山部の活動で身をもって体験している慧卓は危機感を抱き、なるべく早いうちに比較的安全な場所へ向かおうと心に決めた。
 山を降りてから二時間後、矢張りというべきか雪の勢いは一気に強くなり、風がほとんど真横に吹き抜けてるのではないかと思うくらいに、慧卓らの顔を叩いてきた。最早進むどころではないと、二人は道を外れて、苦労の後に雪風から逃れられる洞穴のような場所を見付け、その穴の奥へと退避した。この雪嵐は長く続きそうである。今晩はここで一夜を明かす心算であったのだ。
 火を熾してその上に鍋を置いて、中を匙でかき混ぜる。ひゅうひゅう、ばちばちという相反する音を耳にしながらリコは話す。先程慧卓の問いに対する回答であった。

「僕が地図を作るために今まで旅してきたのは、所謂ドワーフ領。つまり、王国の南部なんです」
「南部?」
「ええ。賢人曰く、『熱砂の海』。知人曰く、『好き者は行く場所』。それが南部です。
 王都は大陸の真ん中にある分、気候がとても恵まれていて、人や作物がとてもたくさん集まる場所なんですけど、南は全く違いますね。知っていますか?最南端には
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