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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その2:峰を登り
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とする。
 先ず二人は極力無理する事無く馬を進めて、凡そ一週間で山の麓へと到達する事が出来た。道中、野党が潜んでいるであろう鬱蒼として影の深い木立を回避していき、友好的な村を訪れ其処の宿に泊まり、無駄に危険を冒さぬよう努めた結果だ。また村中では偶然発見した馬具の損傷、これまでの幾つもの旅路で負担が積もったのだろう、を直すよう村の職人に路銀を叩き、同時に魔獣討伐隊の行動を聞き出す事に成功していた。話によると討伐隊は道に沿って進軍していき、本格的な活動時期を控えている魔獣の巣などを急襲したという。それも比較的人間に無害なリザード、背丈が1.5メートルほどの大蜥蜴らしい、の巣も襲ったそうだ。慧卓はこの話を聞いて、矢張り討伐隊の出立には裏があったのだと確信したのであった。
 麓に到着した二人は、討伐隊の進軍の痕らしい、妙に踏み鳴らされた山道を歩いていった。遠景から分かっていた事だが、白の峰と称されるこの山々は、自然の要害ともいうべき険しい場所であった。標高でいう100メートルを超えた辺りから急激に山肌の起伏、風の勢いが激しくなり、歩行のペースが著しく落ちていった。更には太陽が東に照る昼間だというのに、山がすっぽりと雪雲に覆われてしまい、白銀の結晶の雨に見舞われる事となってしまった。視界は5メートル先も明瞭とせず、道中には濃霧よりも尚煙い、冷え冷えとした雪の靄が立ち込めていた。

「冷えるな・・・これが北の霊峰か」「まだまだ入口です。ここからが本番ですよ」
「そうかもしれないけど、でもこれはいくらなんでも・・・っ!」

 慧卓はあまりに厳しい自然環境に愚痴を零したくなる。今まで歩んできた場所とはまるで別世界だ。怒鳴らねば相方に声が届かないし、目も碌に開ける事が出来ないし、露出している僅かな肌がぎちぎちと寒さに痛んでいる。筋肉が固められるような痛みである。毛深い衣服にも雪が積もり、手綱を握る指先がきりきりと痛む。口から漏れ出る吐息はすぐに風に飛ばされ、白い蒸気がすぐに顔に張り付いて凍ってしまう。左手の薬指に嵌めた指輪が、ぎちりと肌に食い込むようであった。
 時折風雪が勢いを弱め、煙が晴れる事もある。その時こそ背筋がぞっとする時だ。自分が歩いている場所が道幅1メートルも無い、岸壁に沿った坂道であると分かるからだ。雪の嵐が山間を流れているためか谷底は見えない。それが底の深さを強調するような空漠とした印象さえ受けられ、慧卓に嫌な汗を掻かせるのである。道の細さに全く動じぬベルの蹄が道端の小石を弾くと、小石は雪を蹴り付けながら岸壁を下っていき、ぽろぽろと雪片を散らしながら消えていった。

「うへっ・・・落ちたらやばいな。これは、早い所越えた方がよさそうだ」

 そういった慧卓の焦りとは裏腹に、リコは全くペースを崩さず、馬の調子に合わせて休息を取ったり、或は
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