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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その2:峰を登り
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かしたらあの時敵対した熊は冬眠前の最後の餌集めのために山中をうろついていたのかもしれない。そう考えても特段不思議とは思えないのが、自然の怖さであった。
 慧卓は暫く瞼を閉じて仮眠を取っていたが、身体の血の巡りが良い事を感じるとむくりと起き上がった。少しばかり立ち眩みに襲われるが、特に歩きに支障は無い。
 外に出ると同時に、家屋を守護していたエルフの衛兵の「御機嫌はどうですか、補佐官殿?」という声が掛かって来た。

「え?・・・ああ、大丈夫です。少し歩きたくなってので、もしソツ様がいらっしゃったら、俺は近くを歩いているって言ってくれますか?」
「失礼ですが、あまりご無理をされない方が宜しいかと。顔色が優れていらっしゃらないようですから」
「だ、大丈夫ですって。俺そんなに酷いですか?」
「ええ。まだ血が足りていないと思われます。御無礼かもしれませんが、今しばらくは休まれた方が良いかと。まだ、太陽も昇っておりませんから」

 言われて慧卓は気付く。厚い雪化粧に包まれる山々は薄暗く、また底の深そうな蒼が空を支配していた。空気の冷たさや空の暗さから考えて、まだ午前の三時を過ぎたばかりであろうか。
 雄大に広がる白の峰は静まり返り、慧卓が運び込まれた集落も寝静まり、鳥一匹とて囀る事は無かった。山の緩やかな起伏に沿って立てられているこの集落では、頑丈な木造建築の家々が目立ち、その屋根には例外なく厚い外套のように雪が被っている。獣除けのために照らされる篝火の火が静かに揺れて、雪を煌めかせる事無く照らしていた。
 このような時間帯であるなら、出歩く方がかえって危険か。自重の心で慧卓は屋内へと戻り、そして昼間にはきっと外は、燦々とした日差しを浴びる海原のように煌めいているのだろうと想像して、ぽつりと呟く。「きっと、白銀の世界なんだろうな」と。


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