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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その2:峰を登り
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者を連れて山中に見回りに向かいました。瞼が開けていられなくなるような風雪に見舞われながら進んでいきますと、護衛の者が『血の香りがする』と言うではありませんか。それに驚いて香りの下を辿っていくと、そこには大きな熊が一頭、側頭部に裂傷を負い、転落のためか頭が陥没して横臥しているのが見えたのです。
 恐る恐る近付いて様子を見るに死んでいるのが分かり、一つ安堵を覚えますと、その傍らにある立派な樹木の蔭に真っ赤な血を滴らせる一振りの剣と、そしてケイタク様、あなたを見付けたのです」

 ソツの話を聞いて、慧卓は漸く自分が何処に居て、何故そこに着いたのかを知る事が出来た。それにしても、あの風雪の中を蠢く影は瀕死の傷を負った熊だったのだろうが、よくも崖から転落して即死しなかったものだ。無論、それは自分に対しても言える事なのだが。

「冷たい吹雪の中で衰弱したあなたを介抱するために、また偶然にも仕留められている熊を持ち帰るために我等は集落へと向かいました。その道中、一つの山道から急ぎ足で降りてくる一頭の馬と一人の青年を見受けました。それがあなたの言うリコ殿、そしてあなたの愛馬であらせられるベルです」
「ふ、二人は無事ですか?」
「はい。リコ殿は今は身体を休められておりますし、ベルはむしゃむしゃと飯を食らっておりました。とても元気な姿でしたよ」
「そうですか・・・それは良かった・・・本当に良かった」

 相方と愛馬が無事な事に、慧卓はすこぶる安堵を覚える。欲を言えば熊に屠られた馬も回収して葬りたい所だが、流石にそこまでを頼むのはおこがましいために憚られた。何にせよ、アクシデントを挟んでしまったが、自分達の旅は途中で終焉を迎えずに済んだのである。
 話すべき事も大方話したのか、ソツは話題を変えた。

「集落の祈祷師があなたと御話をしたいそうです。師は申し訳ありませんが、王国の方々が理解出来る言語には堪能ではありません。よって私が通訳させていただきたいのですが、宜しいですか?」
「勿論お会いします。ですが出来れば、もう少し休ませてもらえたらうれしいなって思うんですけど・・・」
「大丈夫ですよ。気分が優れるまでどうかここでお休みください。何かありましたら、外の者にどうぞ。・・・もう雪は止んでおりますので、いい景色も見られますよ」

 ソツはそのように残して、屋外へと出て行く。残された慧卓は小さく溜息を吐くと、寝台に仰向けとなって寝転び、額に手を当てて天井を見上げた。強い風雪の中で熊と対峙した記憶がフラッシュバックし、幻想のように天井に投影される。

(・・・無理をしちゃったな、また)

 後から考えれば何と無謀な事だったであろう。山中の熊に真正面から相対する等、命知らずにも程がある。そもそも熊とは一体いつの時期から冬眠に入るのであろうか。もし
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