暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その2:峰を登り
[2/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
。遥か遠くに聳える山並みから流れてくる向かい風によって、馬の尾がふりふりと、二人の外套がばたばたと揺れていた。蹄が乾いた土を踏みつける音が段々と遠ざかっていき、リタは二人の無事を、とりわけ何よりも大事な弟の無事を心より祈り、胸の前で手を組む形で二人の出発を見送った。大地を歩む二つの影が、まるで日に晒されて乾かされる洗濯物のように形を変えながら、森から遠ざかっていく。影の上方には、未だ姿形を煌めかせる星々が、朝日の光に負けないでいる様子が見て取れた。
 見送りの祈りを終えたリタは踵を返して森へ入ろうとするが、木立の中に何を見たのか、くすりと笑みを浮かべて其処へ言葉を送った。

「言伝は預かるまでもなかったようね。ねぇ、キーラさん?」「・・・」

 返答が帰ってこないのがまた微笑ましい。リタが近付いて其処を覗き込むと、樹木の肌に寄り掛かっているキーラの姿があった。恐らく出発する慧卓らの姿を見て後を付けてきたのだろう、寝起き姿のままで清流のような髪も梳かされてはおらず、ハリネズミのような寝癖が出ているのが更に面白い所であった。
 リタは笑みを浮かべたまま、キーラの真意をすっと見抜いて問う。

「声を掛けた方が良かったと思いますよ。直接顔を合わせなければ、言うべき事も言えないままですからね。恋煩いの解決策というのは、そういうものです」

 キーラは心中の蟠りの正体をあっさりと看破された事にむっとしながら、しかし次のように反論した。

「・・・今は駄目です。何を言ってしまうか、自分でもわかりませんから」
「あら、そうなのですか?」「ええ。ですから今は駄目なんです。もう少し心が落ち着いたら言います」
「・・・年上からの冷や水からもしれませんけど、恋というのは、素直になった人が勝つ。そういうものなのです。帰ってきてからでいいから、自分の思いをぶつけてみなさい。そうすればきっとうまくいきますから」
「・・・先に戻りますね」

 幹より背を離したキーラは足を進めかけて、一瞬寂しげに遠ざかる慧卓の背中を見遣った後、すたすたと森の居住区へと戻っていく。

「もう。素直じゃないんだから・・・」

 自分の気持ちをぐっと抑え込む様が歳不相応に見えて、リタは微苦笑を湛えて彼女を見る。どうにも此処には不器用な者が多過ぎると頭を振った後、リタは朝餉の準備に取り掛かるため、耳を安らげるような清水を流す川辺へと向かっていった。エルフの子供らより教えられた焼き魚なるものを、今日は試してみる心算であったのだ。宮廷内では豚・牛が貴族らの主食であっただけに、魚料理に触れるのは最近では珍しい。腕によりをかけて作ってやろうとリタは心中で気概を燃やした。

 さて、慧卓ら一行の道程というのは中々にハードであると言えよう。これを彼らの行動を追っていきながら説明する
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ