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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その2:峰を登り
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 地平線の彼方から朝焼けの透明な光が大地を照らし、未だ安堵の眠りに就いたままのエルフの森に意識の覚醒を促した。早起きな者は既に起床して朝餉の準備に取り掛かっているが、しかい大多数の者はまだ床に就いたままだ。哨戒を除くエルフの兵も、兵士の治療に当たっていた調停団の面々も同様である。アリッサも目をとっくのとうに醒ましているのだが、だが寝間着を着替えようとはしなかった。力の抜けた表情で何もない天井を、ただぼんやりと見詰めては瞬きをするだけであった。
 森の一角から二頭の馬を携えて、三人の人影が現れる。馬には馬具が確りと嵌められ、長旅に備えて食料と水、万能ナイフ等の小物、鍋をはじめとする簡単な料理道具、代えの衣料、エルフから提供された治療薬等を詰めたバッグが提げられている。路銀が幾許か入っている小袋も同様であった。馬を連れる二人の男性、慧卓とリコはそれぞれ温かそうな防寒具を着込んでおり、得物である両者の剣は此処までの道中を付き添ってくれたリタが持ち運んでくれていた。
 慧卓は朝日の眩さに、瞼の内にふわふわと明滅するものを感じながら、リタを振り返った。

「すみません。ここまで荷物を持ってもらって」「いいのですよ。弟の旅立ちを見守りにきたついでですから。それにしても本当に良かったのですか。他の皆さまが寝静まっている、こんな早い時間に出発してしまっても」
「ええ。事は速さを求めています。早いうちに手を尽くしていけば、その分あとで有利になれるんです」
「とても大事な仕事なのですね。正直、心配になってきました。リコはまだまだひよっこですから、無理をして怪我を負ってしまうのでは・・・」
「ね、姉さん。そこまで大袈裟なものでもないよ・・・」「いいえ。冬の霊峰を越えるのだから、これくらい心配した方がかえって当然くらいよ。兎に角身体に気を付けてね。危険なのは寒さだけじゃないんだから」
「分かってるって。大丈夫、いざとなればケイタクさんが守ってくれるよ」「そうだな。お前よりは剣が出来るからな」

 軽く肘で小突くとリコは淡くはにかんだ。リタから剣を受け取ると二人はそれを腰に差し、紐で確りと鞘とベルトを固定すると、馬にゆっくりと乗る。慧卓が鼻息をぶるりと震わすベルを宥めていると、リコが後ろから問う。

「他には何もない?何か、言い残した事も無い?」
「僕は特にないけど」「・・・じゃあ俺から、キーラへの言伝を預かってもらえますか?」「はい。承ります」
「『あの人や君を裏切るような真似をしてしまった。申し訳ないと思っている。この罰は必ず、王都で受ける』って」
「それは一体・・・いえ、分かりました。確りと伝えておきます」
「有難うございます。じゃぁ、リコ」「はい。姉さん、行ってきます」

 意味深な事を残した後、慧卓はリコを連れて西へと続く道を進んでいった
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