暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その1:女修羅
[1/12]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

 痛々しく焼かれた森。遠くより全貌を見た時は、まるで右腕をもがれてしまい煤のみが噎せ返っている惨たらしい姿を晒しており、悲嘆の念が込み上げるのを妨げる事は出来なかった。所々でまだ白々とした煙が晴雨定かならぬ曇天に向かって立ち上っており、それが小火によるものか炊事によるものか一見しただけでは判断のしようが無かった。小風によって灰色に燃えた屑がまるで堰を切ったかのように地面を滑る様は、言葉で表しようの無い哀しさに満ちていた。
 炎によって枯れてしまった木々の残りを掻き分けると、影響を受けつつもまだ無事な姿を保つ森林が見えてきた。家屋が密集するこの地域は被害を免れたようであり、彼方此方に人々の疲弊した様子が見られる事を除けば、比較的平穏を保っているように見えた。担架に担がれていく鬼籍に入ったエルフと擦れ違うと、馬を進めていたアリッサは俄かに不安を露わとした。

「これは・・・もしや・・・?」「・・・大丈夫です。エルフの人々は無事です」
「そうではない。私が言っているのは・・・いや、そうだな。あいつらがそう簡単にくたばる筈が無い」

 後ろに続く慧卓の声を受けて、アリッサは自らの懸念を振り払わんと頭を振る。森の入口で警戒に当たっていた兵より細かな事情は聞いている。森に火を放って、その勢いを借りて盗賊を撃退したのである。何とか敵を撃退出来たのかと安堵する反面、仲間が傷ついていやしないかと不安にも思うのだ。
 道を進むと疲れた表情をした歩哨が立っているのに気付き、アリッサは彼に尋ねた。

「すまない。私は調停団団長のアリッサ=クウィスだ。たった今東の村から帰還した所なのだが、調停団の団員はどこに居る?」
「人間の方ですか・・・ええ。あの外れにある家ですよ。あそこで休んでいます」「有難う」

 心底どうでもよさそうな、あるいは辛い記憶を忘れようと努めているのか無味乾燥とした言葉であった。二つの騎馬は歩を進めて、森の深々たる様を、しかしその内側では深い悲しみを秘めている様を眺めていった。
 目的の家屋に辿り着く。ここを離れた時と変わらぬこじんまりとした家屋であり、馬を厩舎に留めた後、アリッサと慧卓は中に入り、そしてあっと瞳を開く。机や藁椅子が総べて片付けられて広々とした床が現れており、そこには顔を布で隠された三人の躯が仰向けに眠っていたのだ。

「っ・・・おい、確りしろ!おい!!」

 アリッサは駆け寄って膝を床に突き、さっと手を伸ばしかけて、すぐに手を止めた。何かを悟ったかのように彼女の瞳に悲哀の色が滲む。半ば呆然とした様子であった慧卓の後ろから、沈痛な面持ちをしたユミルが現れた。

「どうしようもない。もう事切れているからな」「っ・・・ユミルさん」
「よく帰ってきたな、ケイタク、アリッサ殿。・・・そして、すまない。皆を守り切れ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ