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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その1:女修羅
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まうものだったんだ。気持ちを鎮めるために、私は何度もケイタク殿とーーー」

 更に言葉を続けようとしたアリッサの頬を、ぱしんと、痛烈な音が響き、彼女の懺悔の意識を明滅させた。ひりひりとした痛みが頬に走り、アリッサは振り抜かれたキーラの手を見て、自分が平手打ちをされたと自覚した。犯した罪の大きさを明快に自覚させるその衝撃に、アリッサは抗弁する余地もなかった。
 申し訳なさから頭を垂れる彼女を見て、キーラは堪え切れずに激情をぶちまけた。貴族の面子を象徴するような穏やかな敬語を取り繕う余裕など、対面する女の頬を叩いた瞬間に消し飛んでしまった。

「最低っ・・・あなた、ケイタクさんの気持ちを分かって襲ったの!?あの人を待っている人が王都に居るのにっ、何をやっているの!?まさか、この時を狙ってやったんじゃないでしょうね!?」
「ち、違う・・・最初こそ、御互いに変に意識し合ってしまって、済崩し的にしてしまったんだっ。事故みたいなもので・・・」
「でもその次は違うよね!?明確な意思を持って襲ったんでしょ!?薬でまともに頭が回らなかったせいかもしれないけど、それならそれで玩具でも使えばよかったじゃない!!なんでケイタクさんを襲うのよ!?」
「・・・」
「避妊はしたの?」

 弱弱しく頭が振られる。否定であった。キーラは唖然としてように瞳を開き、その綺麗な瞳に雫を貯めていく。彼女の掌が赤に染まっていないアリッサの反対側の頬を叩いた。無防備に晒された両方の頬を強く叩かれ、気丈さを保っていたアリッサの瞳にも涙が浮かんできた。引き締められた唇の間から震えた息が漏れ、彼女の心の波の具合を伝える。
 しかしキーラにとってそれは更に激情を駆り立てるものに過ぎなかった。怒髪冠を衝くとまではいかないが、情動で頬が痙攣しかけそうになっている彼女の目から見れば、今のアリッサは三流悲劇の浮ついたヒロインを演じているようにしか見えないのである。本当に悲しむ資格があるのは別の高貴な人であるというのに、この女狐は何様の心算であるのか。キーラは震えかける口調で更に続けた。

「何をしでかしたかわかっているの?あなたが事に及んだせいで、ケイタクさんとコーデリア様の誓いが台無しになってしまった!それを理解している!?あの方の気持ちが分からない訳ないでしょ!?」
「・・・ああ」
「だったらなんで?どうして今なの?・・・王都に帰ってからでもよかったじゃない・・・」
「・・・私は、自分に素直になり過ぎたのかもしれない」
「どういう意味よ、それって」

 疑問を投げかけて、返ってきた自嘲めいた瞳を見てキーラは憤りを覚えるが、同時に何かを感じ取り、そしてその何かはすぐに明快な解答へと転じて彼女を茫然とさせた。東の村へと向かう前にぽつりと問うた質問、『慧卓の事を好きなのか』というそ
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