第四章、終幕 その1:女修羅
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ければならん」
「でも、どうやってです」「ニ=ベリ殿が言うには、この時期に実る珍しい果実や、冬を活動時期としている野生の動物がいるらしい。採集班と狩猟班に分かれて我等は行動し、そして日々の食事を節約すれば何とか越冬できるようだ」
「厳しい現実には変わりないのですね」「ああ。覚悟の上の越冬だ。皆それを承知しているだろう。・・・ところで、執政長官からの書簡というのは?」「これです」
慧卓が差し出した書状を広げて読むと、矢張りというべきか、アリッサは顔を顰めてそのうえ訝しげに首を捻った。どうやらこれに対する疑問は三者共通のものらしい。
「・・・まともな命令とは思えんな。なぜ執政長官殿はこのような事を。これはあくまで伝説上の代物だぞ」「アリッサさん。これは恐らく、マティウス様の入れ知恵かと思います。噂通りの人物であるなら、これを吹き込んでもおかしくはありません」
「魔術学院の校長か。面識はないのだが、どういう奴なのだ。何か知らないか、ケイタク」
「え?」
驚いたようにキーラは面を上げた。アリッサは己の失態に気付く。うっかりというべきか、彼女の目の前で慧卓を呼び捨てにしてしまったのだ。普段から敬称を付けるべき所をそうしないで省略したのは、第三者に並々ならぬ親密さを匂わせるに等しい。取り分け他者に対しても敬称を忘れぬ彼女にとっては動揺すべき失態であった。
此処でいきなり事実を暴露するわけにもいかないため、慌てたようにアリッサは言い直す。
「あっ、い、いや、ケイタク殿。どうなんだ?」
「そ、そうですね。鳩面で人を小馬鹿にする感じの爺さんって感じでしたよ?知的好奇心も強くて、それに似合うくらいの知識もあります。学校の校長なら実力も相当なものだと思うんですけど・・・」
「そ、そうだな。そのような人物の言葉は受け入れられない事は無いか。・・・となると矢張りこれは正式の命令なのか」
違和感の正体を探るような冷たい視線、燭台の光が合わさってかそれは想像以上に怜悧なものであった、となっているキーラに内心びくびくとしながら、アリッサは書状を読み上げた。
「『エルフとの協力関係の構築に努め、治安を安定化させよ』。これはまだいい。だが、『王都の聖鐘を襲った一団より早く、狂王の秘宝を確保せよ』とは・・・」
前者の命令は理解できる。地盤が脆い現在の王国が、エルフと敵対して得るであろう利益は全くないのだ。だからこその協力関係、治安維持だ。危険な火の粉は無駄に焚くものではないという、その意味では全く分かりやすい命令である。だが真の問題は後者の命令であった。
狂王の秘宝。エルフの文献によれば、それは数世紀前に君臨していた残忍な王であり、秘宝の魔力を用いて臣民を虐殺した怖ろしき王である。その秘宝が今、聖鐘を襲った一団、すなわちチェス
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