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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その1:女修羅
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・・・これは私達だけで判断できるものじゃないね。アリッサさんを待って、そのうえで三人で話しましょう。とても大事な内容だったからね」
「そうしておこうか。じゃぁそれまで、俺は仮眠を取っているよ」「わかった。掛け布団出すから、ちょっとまってて」

 キーラは書簡を椅子に置くと、奥の部屋へと入っていき、そこから一枚の掛布団を手にして戻ってくる。慧卓が寝台に横臥するのを待つと、その上に優しく布団を掛け、彼の前髪を掻き分けその額に小鳥のような接吻を落とす。

「おやすみなさい」

 少し平坦となってしまった口調は明らかな照れ隠しの証拠であり、まるで赤らんだ頬を隠したいと言わんばかりに彼女は顔を背け、そのまま部屋を出て行った。
 接吻を落とされた慧卓は少し呆けた表情をしていたが、ふと気を取り直すと、言うべき重大な事を言えなかった自分に苛立つように、また想いを向けてくれるキーラに罪悪感を感じているように険しい顔つきとなって、家の壁をじろりと睨みつけた。しんみりとした雰囲気に流されて何も言えなかったのだ、何と臆病な事だろう。
 掛布団を腹に掛けると、鬱屈とした気持ちを抱えながら慧卓は目を腕で隠し、何も考えまいと仮眠に没入していく。外で餌を求める小動物が駆けているようであったが、興味が注がれる事は無かった。


ーーーその夜ーーー


 アリッサが戻ってきたのは寒々とした空気が蔓延する夜になってからだった。夕餉も向こうで済ましたらしく、慧卓とキーラは早速彼女を交えて家屋で会議を開いていた。慧卓とアリッサが隣り合うようにして藁椅子に座り、そしてテーブルを挟んでキーラも椅子に座っていた。テーブルには慧卓が持ち込んできた執政長官からの書簡が無造作に置かれており、壁に掛けられた燭台には火が点って屋内を明るくさせていた。
 開口一番にアリッサは淡々と告げる。

「どうにも、何事も全ていい方向にいっているとは言い難いな」
「というと?」「先の戦闘によって、元々森を守護していた兵の五割が負傷、或は殉職したらしい。援軍がなければ森は落ちていただろう」
「そんなにですか?でも、そんな風には見えませんでしたが」
「キーラ。後方にいたあなたにはそう見えたかもしれない。しかし盗賊の物量は、エルフに甚大な人的被害を与えたのだ。負傷者の多くも重傷者だ。中には冬を越せぬ者もいるという」

 慧卓とキーラは口を引き締める。エルフの受けた損失がそこまでのものとは知らなかった。もしかしたら心に対岸の火事を見るような無責任な感情があったのかもしれない。自身を引き締めるに越したことは無かった。

「これからかなり忙しくなるぞ。調停団はエルフと共同でこれからの事態に当たる事になった。最優先にすべきは死者の埋葬、負傷者の看病だ。それが一段落つき次第、食糧の確保を手伝わな
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