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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その1:女修羅
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。柔らかな身体から解放された慧卓は、彼女の瞳に自身への批判、そして悲哀の色が滲んでいるのに気付く。言葉より察するに、森そのものを火計の舞台にしようという事に対して大きな罪悪感を感じているのだろう。慧卓は彼女の両肩に優しく手を乗せると、自分の方へと顔を向かせて率直に言う。

「大変な決断だったろう。心にも痛みも感じたろう。だがそれでもキーラは立派じゃないか。皆を救おうと穢れ役まで引き受けようとした。それだけじゃない。自分に出来る事が何かを探して、人の役に立とうとしているんだ。十分すぎる程頑張っているよ」
「・・・ただの、自己満足だよ」「それでもだ。行動できることは凄いぞ。キーラ、君は頑張っている」

 自責の念に沈んでいたキーラの瞳は揺らいだままであったが、励ましの言葉をさも硬い軟骨を噛み解すように咥内で咀嚼し、それを嚥下する。心の全ての惑いが取り払われたという訳ではないが、しかし気が楽になったのは確かなようであり、彼女の頬に僅かであるが温かな色が差した。慧卓が肩から手を離した後、自嘲的に彼女は言う。

「ごめんね。私がケイタクさんを励ますべきだったのに」「気にするなよ。抱き締められた御蔭で、そういう気持ちが十分伝わったから」「・・・そっか」

 もやもやとした気を晴らすように天井を見詰めた。慧卓はふと生まれた沈黙の中、ふととある事を思い出して胸をどきりとさせた。それは、アリッサとの間の新たな関係を言うべきかどうかであった。口を少し開けて言わんとしたが、しかし何故か喉まで込み上げた言葉は、唾という名の自分自身の臆病さによって押し留まってしまった。キーラから帰って来るであろう失望と哀しさ、そして怒りといった複雑な負の表情を想像すると、何故か声帯がびくりと震えてしまい事実を告げようという気が削がれてしまったのだ。
 慧卓は緊張した時の顔にも似た鉄面皮を被っていたが、すぐにそれを元通りに和らげざるを得なくなった。キーラは淡く微笑みながら慧卓を見遣ったからだ。彼女は慧卓の背後にさりげなく置かれている書簡に気付き、尋ねる。

「何て書いてあったの?その書簡」「これか?・・・さて、何なんだろうな」
「どうせ皆に公表しなくちゃいけないんだよね?だったら、私が今ここでそれを知っても別に罰になるわけじゃ無いと思うな。それとも罪を親告する?『機密情報を盗み見た』って」
「そんな事するはずがないだろう?・・・ほら。これがそれだ。キーラなら、俺よりももっと深くこれの意味を理解できる筈だ」

 気を晴らさんとした冗談めいた台詞を一笑しながら、慧卓は素直に書簡を取り出し、キーラに差し出す。キーラは傍にある椅子をずずと引き摺って近くに寄せて、埃をぱっぱと払うとそれに座り書簡を広げた。文面に視線を走らせていく内に、彼女は慧卓と同じように表情を顰めた。


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