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王道を走れば:幻想にて
第四章、終幕 その1:女修羅
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となく郷愁を感じさせる質素な屋内の様子を、慧卓は何気となく眺めていた。 

「・・・変わらないなぁ」

 どうもここを長く見詰めていると、ホームシックに囚われる気がしてならない。慧卓は己の果たすべき職務を頭を振りながら思い出し、そのための書簡を自らが眠っていた寝台の上に見つけた。
 それを手に取って寝台に座ると、慧卓は暫し考え込むように顎に手を当てた。「開けていいものだろうか」という疑問が頭の中に生まれたのだ。調査官自らが果たすべき職務の中には、もしかしたら補佐役に知らす事が出来ぬ、守秘義務に関わる事があるのかもしれない。しかしこの場において慧卓は、「調停官も補佐もやる事はどうせ同じだろう」という結論に早々に至ってしまう。思慮に欠けた結論であったが、しかしあの執政長官が託した命令というものに興味がったのも事実であった。
 心が決まるとやるのは早い。慧卓は書簡の紐をさっと解いて中を検める。品良く、丁寧に折られた一通の書状が入っていた。さっとそれを取り出して慧卓は読み進めていく。文面を追ううちに慧卓の若々しい色濃い眉は顰められ、額には横軸の皺が走った。目は文面をまっすぐに捉えているのにそれに注意を払っておらず、まるで自分の思考に浸りきっているかのように瞼が閉ざされようとしていた。周囲の喧騒などまるで耳に入っていないようであった。

「ケイタクさん!!」

 呼びかけられた声に動揺し、慧卓は急ぎ書状を仕舞って頭を上げた。清流のような水色の髪と、宝石のような深い碧の瞳。どことなく幼さを残す愛らしき容貌と、慎ましく品のある唇。エルフの文化に馴染むべく茶褐色の麻の服を着こなした少女、キーラが喜色を満面としながら慧卓を見詰めていた。

「き、キーラ!」「ケイタクさん、よかったぁっ!」

 嬉しさを抑えきれなかったのか、キーラは慧卓に覆い被さんばかりに抱き付く。丁度柔らかな双胸の間に迎えられるような格好となってしまい、慧卓の頬が僅かに朱に染まった。込み上げる思いのままにキーラは続けた。

「大丈夫?怪我とか、何も無かった?」「あ、ああ。戦場に何度か出たけど、怪我一つ無かったよ。万事大丈夫だ」「本当に?」「本当の本当だ。俺は無事だよ」
「はぁ・・・それを聞けて良かった。怪我なんてしたら大変だから。破傷風なんて患ったら、私、どうしたいいか分からないもの」「・・・そっか。戦が終わったら、次は病か」
「ええ。身体的なものもそうだけど、一番はやっぱり心の病。人の死を間近に見て、たくさんの人が参っている。・・・私のせいで森もたくさん焼けてしまったから、それを悲しむ人もいる。今の私に出来る事は、その人達の看病なの」
「私のせいって・・・」「・・・森を焼くよう意見を出したの、私なんだ」

 高揚していた口調が一転、キーラの言葉には悲愴な色が混じった
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