崑崙の章
第9話 「おじちゃん、だいじょぶ?」
[2/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
場に倒れこんだ。
「くはぁぁぁぁっ……はあ……はあ……」
ぐったりとして俺が座り込む。
顔だけ対岸に視線を送れば、反対側でも疲れ果てた水夫がそれぞれ大の字で寝そべっている姿が見えた。
牛や馬を一緒に先導していた人々にまかせた紫苑が、こちらに駆け寄ってくる。
「お疲れ様でした、盾二様……大丈夫ですか?」
「ぜぇ……ぜぇ……な、なんとか……」
紫苑に強がるも、正直疲れた。
かれこれ一刻(二時間)以上も引っ張り上げていたのである。
さすがにスタミナに自身がある俺も、全力で二時間引っ張り続けるのはつらい。
牛や馬がいなかったら、到底無理だったろう。
「ここで休んでいてください。わたくしは借りていた牛や馬を返して来ますわ」
「お、お礼は、はずんで、あげて、ねぇ……」
「もちろんですわ。無理を言いましたし」
そう言って、馬と牛を世話している人々の元へ向かう。
彼らは、近所の邑から牛と馬を持ってきてくれた上に、船を引き上げる手助けをしてくれた農民だった。
近隣の邑に無理を言って農耕馬や牛を借りたのだ。
普通なら断わるだろうが、そこは巴郡の領地。
桔梗の一言で邑の全ての馬と牛を借りることができた。
ここが桔梗の治める領地で本当に良かったと思う。
でなければ、こんな数の牛馬を借りることなど出来なかっただろう。
「て、てか。船、でかすぎ、なんだよ……」
俺たち三人を運ぶだけなら小さな小舟で十分。
大体、それならば船に頼らなくても馬で行ったほうが十分早い。
いや、徒歩でもいいのだ。
それなのに、船でわざわざ長江を遡る理由。
「こんなものが、迷惑料、だって、いうの、だから……」
劉表が桔梗に出した見舞金……いや、見舞いの品。
その内訳は、なんと三千万銭と、この大型船。
実質、白帝城の金蔵を空にして見舞金を桔梗に出したのである。
その重量……およそ一トン。
それはいい。
だがもう一つ。
武装船にして乗組員定員、実に二百人という新型の大型船舶。
これが桔梗に『迷惑料の一部』として贈られた。
しかし……しかしだ。
やっぱり劉表は、考えなしだと思う。
最低限の船員はつけてくれたのだが、上流に持っていく『手間』というものを考えてはくれなかったのだ。
いくら海の如く広いとはいっても、ここは長江……”川”なのだ!
にもかかわらず、外洋船のような大型船舶を下流でなく上流に運ぶその労力……それをこっちまかせにしやがった。
出航するまで狂喜乱舞していた桔梗が、遅々として進まない船足に、段々とテンションがダウンしていく様を本人に見せてやりたかったよ。
陸路なら巴郡まで徒歩でも六日という距離。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ