暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
『おめでとう』を君に
[4/4]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
れる。部下の心遣いは嬉しいが、もはやこの展開は彼にとって混乱を助長するものでしかなかった。
「そうか」
頼りなげに肯いて、半ば焦りを覚えながら、オーベルシュタインは自身の鞄を引き寄せると小さな包みを奥へと押しやってから、細長く大きな包みの方だけを取り出した。
深呼吸をひとつすると、幾分かは混乱も落ち着く。
さあ、今を逃さず、さりげなく。
オーベルシュタインは心のうちで掛け声をかけてから、色の薄い唇を開いた。

「Alles Gute zum Geburtstag. 」

言葉に反して困惑気味の上官から、ワインらしき包みを手渡される。
「え……これを、小官にですか?」
完全に自分のペースで話を進めていたはずのフェルナーは、今更のように狐につままれたような気がして、翡翠の目を丸くした。自分が上官の誕生日を覚えていることはあっても、上官が自分の誕生日を気にかけるはずはなく、ましてやプレゼントをもらうことなど絶対にあり得ないと思っていた。
あまりに呆然とした顔をしていたのであろう。
「迷惑だっただろうか?」
上官が不安げな顔で呟くように言う。
迷惑なはずがない!この上官から、誕生日プレゼントを、しかも個人的にもらったのである。中身が何であろうと嬉しくないはずがない。フェルナーは舞い上がる気持ちを押さえながら、ふと思考を巡らせた。
財布を探していたオーベルシュタイン、押しやった小さな包み、そして誕生日の贈り物。
順を追って思い返すと、全てがつながったような気がした。照れ屋な上官がしまいこんでしまった包みの中身が、何であったのか。そして、なぜその包みだけを隠してしまったのか。自分が余計な気を回した結果だと、フェルナーは気がついた。
「俺としたことが……」
気まずそうに呟いたが、嬉しさはそれに勝る。フェルナーは素直に満面の笑みを浮かべた。喜んで笑ってやるのが一番の謝罪でもあると、彼には分かっていた。
「ありがとうございます、閣下」
敬意をこめて頭を下げると、オーベルシュタインは照れたように俯いた。その姿に、また口元がほころぶ。高価な白ワインだけが、下を向く二人を楽しげに見つめていた。

この不器用で真面目で一生懸命な上官に、いつまでも仕えていきたいと思うフェルナーであった。


(Ende)
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ