『おめでとう』を君に
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
く昼食を摂ったオーベルシュタインは、鞄の中の大小の包みを確認して、フェルナーの戻るのを待った。終業時間は異なり、勤務時間中に私的贈与をするわけにはいかない。自宅に押し掛けるのも妙なもので、後日にしては誕生日の意味がない。彼なりにあれこれと迷った末の妥協点が昼休みであった。良く考えれば届けさせるという手段があったのだが、時間も限られており、そもそもが『他人に贈り物をする』などという不慣れな行為に対して、持ち前の冷静さが職務放棄していた。
快活で規則正しい足音が聞こえ、オーベルシュタインはもう一度鞄に視線をやると、右手に万年筆を握って書類へと目を落とした。
「ただ今戻りました」
相変わらず食えない表情で、フェルナーが一礼する。自席へと戻った部下へ、さてどう切り出そうかと逡巡していると、機先を制して部下の方がオーベルシュタインの執務机へと歩み寄った。体の後ろで手を組んだ姿勢で、にやりと人の悪い笑みを浮かべる。
「閣下。今日は小官の誕生日でして」
「……?」
想像もしていなかったことに、本人からそう切り出される。まさか、誕生日プレゼントを要求されるのだろうか?そのような非常識なことをするはずがないと思う反面、この部下の言動は時に予想の斜め上を行くことがある。オーベルシュタインは少なからず混乱した。
「……それで?」
ただでさえ照れくさい祝いの言葉など、その混乱の中で口にできるはずもなく、結果的にいつもの無愛想な返答となった。そんな上官の様子を気にとめた風もなく、部下の方は最大限の愛想を活用して話を続けた。
「誕生日のプレゼントを閣下に差し上げたく存じます」
そう言って、背後にあった手を小さな箱ごと上官の前へ差し出す。白い上品な包装紙に、先日オーベルシュタインが立ち寄った百貨店の名前が印字されている。しかしそんなものは目に入らず、彼はますます混乱した。
「……私の記憶違いでなければ、プレゼントを受け取るのは誕生日を迎える者の方であるはずだが」
眉を寄せたオーベルシュタインに、フェルナーはつとめて真剣な口調で説明した。
「小官がこうして無事に年を取れたのも、閣下のお陰です。これは、そのお礼だと思って頂ければ結構です」
軍高官が金品の授受をするわけにはいかないと言いかけて、オーベルシュタインは言葉を切った。その様子を意外そうに見つめながらも、フェルナーはその小さなプレゼントを上官の手に握らせた。
「閣下のお気に召すと良いのですが」
良く分からぬままに急かされて、オーベルシュタインは包み紙を開けた。見覚えのあるブランドの箱に一瞬ためらって、そっと蓋を開ける。
「……。」
こげ茶色の手に馴染む革財布は、確かに彼好みのものであった。
「閣下が財布をお探しだと、小耳に挟んだもので」
フェルナーの笑顔を眺めながら、オーベルシュタインは途方に暮
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ