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剣の丘に花は咲く 
第九章 双月の舞踏会
第四話 自由騎士
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すっと背筋を伸ばした姿でアンリエッタが声を上げると、ドアが開き待ち望んだ人の到来を待った。
 
「失礼します」

 ドアが開き、まず最初に現われたのは、銃士隊隊長であるアニエスだった。執務室に入ってきたアニエスは、ドアの前でアンリエッタに向かって深く一礼すると部屋の中を進んでいく。続いてアニエスの後に控えていたルイズが士郎を伴って執務室の中に入ってきた。
  
「っ、姫さま」

 軽く顔を伏せた姿で執務室の中に入ったきたルイズが顔を上げると、口と目を見開き戸惑った声を上げた。
 焦った様子のルイズの声に、アンリエッタの身体がびくりと震える。
 ルイズの視線が自分の顔に向けられていることに気付いたアンリエッタは、導かれるように頬に手を伸ばすと、その白い指先に熱い雫が触れた。

「あっ、その、す、すいません」

 指先に頬を流れる涙が触れ、初めて自分が泣いていることに気付いたアンリエッタが、何処か困惑した様子で手の甲などで涙を拭い出す。誤魔化す様に慌てて涙をぬぐう姿は、何処か幼さを感じさせた。

「っ、お捜しになられていたミス・ヴァリエールの使い魔。エミヤシロウをお連れしました」

 涙を拭い終えたアンリエッタがアニエスに促すような視線を向けると、止まっていた時間が動き出した。

「はい、ご苦労様でした。では下がっていてください」
「……失礼します」

 報告を受けたアンリエッタが労をねぎらうような笑みを浮かべると、アニエスに退室を促す。アニエスは一瞬視線を士郎たちに向けた後、深くアンリエッタに頭を下げ執務室を後にした。
 アニエスの姿が執務室からいなくなり。
 パタン、とドアが閉まる音が部屋の中に響くと、それがスイッチであるかのようにルイズの首が動き出した。部屋の中をゆっくりと見回すルイズの顔には、戸惑いの色が濃く見える。
 その理由を察したアンリエッタは、軽く目を伏せながら自嘲の笑みを口元に浮かべた。

「あなたたちを迎える部屋が、こんなみすぼらしい部屋でごめんなさい」
「えっ!? あ、そ、そんなことありませんっ! ただちょっと、戸惑っていただけで……」

 わたわたと手と首を横に振るルイズに、口元に浮かぶ笑みが柔らかなものにしたアンリエッタが、首を傾け何もない執務室をチラリと一瞬視界におさめる。
 
「あの戦争で、国庫が空になってしまって、少しでも足しになればと売り払ってしまったの……焼け石に水だって分ってるんですけど、ね」
「……姫さま」

 顔を隠すように伏せたアンリエッタが悲しげに呟くと、同調するようにルイズの顔も傾き悲しげな声が漏れる。
 
「戦争は連合軍の勝利という形に終わりましたが、新たな領地とお金を得ただけで……代わりに失ったものは……多すぎて数えきれません」


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