崑崙の章
第8話 「ともあれ、大儀であった!」
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については心配していなかった。
「申し訳ありません、劉表様。わたくしはもう、ここを離れることに決めております」
そう言う紫苑に、劉表はただ一言「そうか」とだけ呟く。
ある意味、劉表はほっとしているかもしれない。
このまま紫苑が太守にいることを望めば、劉表陣営内部にいろんな軋轢が生まれる。
まず、陣営内部に同僚同士の不信感が生まれる。
黄忠の今回の立場は、いわば内偵のようなものだ。
現代の警察にもある公安、もしくは内部告発した社員といえばいいだろうか?
そんな立場の人間が、同じ場所で今後も仲良く働けるだろうか?
残念ながら人はそんなに善意の動物ではない。
疑心暗鬼が生まれ、組織が内部崩壊する可能性が高い。
そしてそれは、トップである劉表への不信という形で現れることも懸念されるからだ。
だから内政下手な領主ならば、放逐や殺害する危険もある。
だが、黄忠という名前は、劉表陣営内でも有名な武将なのである。
そういった内部のことを知らない民にとって、そんなスキャンダルがあればどうなるか。
人心が離れる愚を犯すわけにはいかないのだ。
だからこそ、紫苑自身が納得して自ら職を辞する。
それが全てを丸く収める道であり、紫苑自身が望む道だった。
「わたくしは元より厳顔へ白帝城をご返上した後に、この地を離れるつもりでおりました。劉表様には最後までご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません」
「なんの。お主ほどの人物、儂などより生かせる人物はいくらでもおろう……お主の夫については本当に申し訳ないことをしたと思っておる」
「劉表様……もったいなきお言葉です」
そう言えば、紫苑の旦那さん、死んでいるのか。
その辺りの事情は知らないけど……劉表のミスで死んだのかな?
……まあ、その辺りは詮索してもしょうがないか。
誰だって。知られたくないことの一つや二つはあるものな。
「厳顔については、兵を三千も失うことになってしまったの……その損害は、しっかと賠償させてもらおう」
「は、いや、それはわしの失策でもありまして……」
「何を言う。儂がちゃんとした約定も決めずに置いた為に、部下が勝手に援軍を申し出るなどという愚を犯したのじゃ。その上、儂の部下の管理が行き届いておらぬゆえの今回の騒動。存分に礼を弾ませていただく」
「は……しかし」
桔梗は劉表の言葉に困惑する。
桔梗はあくまで義を通そうとして助勢を送ってきた。
だからこそ、そんなものはいらないと言いたいらしい。
とはいえ……劉表の立場としては何も出さないじゃ自分の立場がない。
ここは……
「(ぼそぼそ)桔梗。受け取るんだ」
「(ぼそぼそ)なに? お主まで何を……」
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