第二十章
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を振り絞った。この声を聞いて、肩の力がすっと消え、少しだけ竹内が哀れに思えた。飯島は腰を屈め、竹内の襟首を左手で掴んで語りかけた。
「そんなに怖いか。絶望の淵で生き続けるのがそんなに怖いか。お前は、今、大量に血を失って、恍惚として、死を受け入れようとしている。死など怖くはないって、そう思っているんだろう。」
竹内は目を閉じ、薄笑いを浮かべていた唇を大きく開け、吐息を漏らした。血の滲んだ目から一筋の涙が流れた。飯島が続けた。
「だけど、お前は生きるんだ。生きるしかないと悟れば、今度は苦痛が襲う。その苦痛を味わうしかない。自分のやったことの罪を償うんだ。」
言い終わると、飯島はベルトをはずし、竹内の上腕部を締め付け、止血した。そして、立ちあがり、章子の傍らに行くと、その場にへたり込んだ。携帯で救急車を呼んだ。呆然と二人の死体を見つめていた。そして呟くように言った。
「章子、章子、許してくれ。俺は君を深く傷つけてしまった。こんな犯罪に追い込んでしまった。俺はやはり疫病神だった。」
それは章子だけではなかった。同時に和子をも、死の淵に追いやったのだ。あの時、もし、じっと孤独と絶望に耐え、章子と関係を結ぼうなどと思わなければ、佐久間を狂気に走らせることも、そして佐久間が和子を殺そうと思うこともなかったのだ。
突然、飯島の口から嗚咽が漏れた。張り詰めていた心に小さな穴が開いて、ひゅーと何かが漏れ出したように。咽び泣く声が広い空間に吸い込まれてゆく。
「和子、和子。済まない。君は俺に会わなければ良かったんだ。俺と知り合いさいしなければ、・・・・」
飯島が自分のプライドを捨て、和子に本当のことを打ち明けていれば、状況は変わっていただろう。それが出来ず、章子に救いを求めた。それが負の状況を作り出し、さらに負の連鎖を呼んだ。そして最も残酷な今という未来を用意していたのである。
遠くでサイレンの音が聞こえる。飯島はおもむろに銃口を米神に当てた。しかし、手がぶるぶると震えて、とうとう引き金を引くことは出来なかった。銃を床に放り投げた。そして呟いた。
「忘れいていた、章子の最後の頼みを。死ぬわけにはいかない。でも、俺に何が出来るというのだ・・・せいぜい保険金が愛子ちゃんに渡るよう、ストーリーを創作するくらいだろう。」
サイレンの音が次第に近付いてくる。飯島はゆっくりと立ち上がった。
翌日の事情聴取は10時に始まり、昼を挟んで終わったのは夕刻近くだ。花田刑事も呼ばれ、飯島の証言の信憑性は裏づけされ、今後も呼び出しに応じることを約束し、開放された。警察を出ると携帯が震えた。何度も無視し続けてきたが、そろそろ、許そうと思った。携帯の受信ボタンを押した。相手はすぐに出た。
「飯島か、今、どこにいる。」
「お前こそ、どこにいるんだ。」
「今、
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