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無明のささやき
第二十章
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「いいか、お前の呑気な寝顔を見ていて胸糞が悪くなった。現実を見せたかった。お前がどんなに惨めな男なのか、思い知らせてやりたかったんだ。」
竹内が章子に近付き、拳銃をもぎ取った。飯島は章子を見詰めた。章子は視線を合わそうとしない。ゆっくりと歩いて、飯島に背中を向けて佇んだ。竹内は、咥え煙草で拳銃を飯島の米神に押し当てた。そして言った。
「章子は結婚後も南と続いていた。俺は、二人を結ぶ惨めなメッセンジャーだった。しかし、今、章子は俺の女になった。」
そして竹内はここぞとばかり声を張り上げた。
「飯島、俺と章子が出来ていたとは思いもしなかっただろう。名古屋支社の駐車場で会った時、章子は既に俺の女だったんだ。俺を馬鹿にしたような顔をしていたが、俺はお前が哀れでしょうがなかったんだよ。分かったか、この頓馬野郎が。」
飯島は章子を見た。いつ引き金が引かれてもおかしくない状況だが、佐久間を撃った銃で飯島を撃つはずもない。その銃を死体になった飯島に握らせなければならないはずなのだ。飯島が章子に話しかけた。
「いつから竹内と出来ていたんだ。最初からか?」
僅かに肩が揺れた。章子は後を向いたまま答えた。
「貴方は何も分かっていない。人の気持ちもなんて、ちっとも分かろうとしない。貴方を本当に憎んだわ。死んでしまえばいいと思った。今思い出してもくやしい。」
章子は涙を拭うと叫んだ。
「やって、もういいの。飯島を殺して。」
飯島は覚悟を決めた。既に章子は腹を括っている。まして、竹内は興奮気味で、さっき自分で言った手順など忘れているよだ。どの拳銃で撃っても関係ないという雰囲気である。 飯島の神経は米神に集中していた。衝撃を待った。しかしなかなかそれは訪れない。その代わりに竹内の声が響いた。
「飯島、良い質問だ。章子と俺がいつから出来ていたかって?俺がお前を疫病神と罵った意味を教えてやろう。いいか、よく聞け、章子はつい最近まで、俺達の犯罪とは縁もゆかりもなかったんだ。」
竹内を遮るように、章子が振り返りながら言った。
「竹内とは友達だった。いつでも相談に乗ってくれた。そして、あの日もたまたま電話してきたわ。」
飯島の心に不安が広がった。
「あの日、あの日ってどの日だ?」
章子は押し黙り、唇を噛んだ。代わりに竹内が答えた。
「お前が、章子を怒鳴りつけた日に決まってるだろう。章子を嘘つき呼ばわりして、しかも和子と別れることになったのが、章子の責任だと怒鳴ったそうじゃないか。まったく勝手な野郎だぜ。最初に章子を誘ったのはお前だろう。」
飯島は愕然として章子を見た。そしてあの時の激情を思い出した。竹内の言葉が続く。
「あれが運命を変えた。あのことがなければ、和子は死なずに済んだんだ。俺がお前を疫病神って言ったのはそのことだ。お前の激情が章子を俺達の犯罪
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