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無明のささやき
第十九章
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を赤く染めた。佐久間の伸ばされたその手はとうとう竹内には届かなかった。ぼろ雑巾のように床に転がった。竹内が飯島に言った。
「そう驚くな。最初から、佐久間は俺が殺すことになっていた。それも佐久間の意思だ。その順番が少し狂っただけのこと。つまりこういうことだ。佐久間がお前を殴り殺す。その後、思いを遂げた佐久間を俺が冥土に送ってやる手筈だった。そして最後に、佐久間を撃った拳銃は、死体となったお前に握らせるという手順だ。」
「そんな子供だましのことで警察を騙せるものか。既に警察はお前が和子襲撃に加わったことも、ホテルで俺を銃撃した事実も掴んでいる。保険金を受け取れると思っているのなら甘い。」
「そんなに俺のこと、心配するなって。保険金の受取人は俺の妹だ。妹と俺は一心同体だ。とりあえず、妹は佐久間の内妻ということにしてある。それに、この胸には偽のパスポートも用意されている。大仕事の後だ。しばらく海外で休暇ってこと。向田がすべて用意してくれている。」
「やはり向田敦は仲間だったわけだ。」
「ふっふっふっふ、いいか、飯島。向田はなあ、腹違いの弟の兄貴分だ。腹違いの弟とは、ホテルで死んだ男のことだ。つまり向田も俺の協力者だ。奴は金さえ出せば、殺し屋の手配でも何でもやってくれる。」
一瞬、殺された和子を思い出し、かっとなったが、そんな感情を押し殺して、飯島は呆れ顔で言った。
「まいった、まいった。竹内さんよ、あんたがそんな悪党だなんて想像もしなかったよ。」
竹内は満足そうに微笑みを浮かべながら答えた。
「ああ、俺もびっくりしているくらいだ。もっとも、石倉をやる時は、膝ががくがく震えた。正一がいてくれて助かったよ。奴がいなければ、ああは上手くいかなかった。しかし、一度、壁を越えると後は楽なもんだ。そうそう、もう一人、あの殺しには協力者がいたんだ。誰だと思う。」
「ふん、そんなこと誰だって分かる。南だ。」
「そう南だ。南が石倉を殺しの現場まで来るよう、携帯に電話した。奴はタクシーを使って駆けつけた。俺がいるので不安そうにしていたが、南は後から来ると言うと奴も納得した。石倉は何の疑問も抱かず、西野社長を陥れ、南を社長に担ぎ出す嘘八百の俺の話にほくそえんでいたっけ。椅子に座って俺とカップ酒を飲んで話していたんだ。」
「その後から正一が縄を首に掛け、一気に吊り上げたってわけだ。」
「ぴんぽん。正解。最初、吊り上げられて、奴は何が起こったか分からなかった。目だけひん剥いていた。だが、佐久間が車椅子に乗って笑いながら姿を現すとすぐに了解した。その時の、奴の哀れな顔が忘れられない。本当に気の毒だったよ。」
と言って、声をあげて笑った。勝ち誇ったようなその顔は、竹内にとって一世一代の晴れ舞台のそれである。だらしなく口が開いた。
「そうそう、南の銃はちっとも当らなか
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