第十九章
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「それでいい、飯島君。それでこそ男だ。彰子は既に覚悟を決めている。さあ、ショウの始まりだ。高みの見物としゃれ込んでくれ。」
飯島は、はっとして章子を見上げた。佐久間がしゃがみこみ何かのスイッチを入れた。モーターの音、そして鎖の擦れ合う音。その時、大きな音を立てて脚立が倒れた。飯島の口から悲鳴とも怒声ともとれる声が漏れた。
「佐久間、なんていうことをする。止めろー」
章子の体が左右に揺れている。何度も何度も体を蠢かせ、そして最後には動かなくなった。怒りで飯島の体はぶるぶると震えた。絶望が胸を締め付け、憎悪が体中を駆け巡る。両手を組んで、震える指先を押さえ込んだ。冷ややかな佐久間の声が響いた。
「あの時、言ったはずだぞ。俺を殺さなかったことを後悔させてやるとな。またしてもお前は、判断をミスった。あの時、俺を殺してさえいれば、章子も死なずにすんだのだ。」
飯島は狂った佐久間の言葉など無視し、怒りを押し殺しながら言った。
「何故、和子を殺した?あいつは俺と離婚していた。俺とは何も関係なかった。」
一呼吸して叫んだ。
「何故、章子を殺した?いいか、愛子ちゃんはお前の子供だ。その母親をお前は手にかけた。狂ってる。」
佐久間がせせら笑いながら答えた。
「飯島君、俺は君に地獄を見せたかった。和子さんと別れてからも、君は家で和子、和子と呼び続けた。君の悲しみは、いずれ時間が解決しただろう。だから、時間が経たないうちに、和子をこの世から抹殺してやった。それに愛子がお前の子供だと言う証拠も揃っている。お前の寝言など聞く耳を持たない。」
飯島が怒りに震えながら叫んだ。
「この気違い野郎、てめえなんて地獄に落ちろ。たとえ殺されてもお前を地獄に引きづり込んでやる。」
にやりとして佐久間が怒鳴り返した。
「ふざけるな、この間男が。いいか、よく聞け、飯島。俺は今、地獄の真っ只中で生きている。あの世の地獄も楽しみにしているくらいだ。いいか、お前が俺に地獄を見せたんだ。お前は、俺の愛する者全てを奪った。愛子まで奪ったんだ。だからそれ相応の地獄をお前に見せてやった。」
飯島は言葉を失った。佐久間が悪魔に魂を売り渡していることを悟ったからだ。佐久間が、笑いながら叫んだ。
「さて、飯島君。私の協力者を紹介しよう。今回の章子誘拐の立役者だ。もっとも、西野家で、最初にお前を撃っていれば、こんな面倒なことはしないで済んだ。だが、西野会長の言葉についかっとなってしまった。」
ふと、遠い目をしてため息をついた。そして呟いた。
「まったくあんな奴に身も心も捧げてきたなんてお笑い種だ。しかし、南が俺のことをカタツムリと言って馬鹿にした訳か漸く分かったよ。全く。」
自嘲するように顔を歪めると、叫んだ。
「おい、出て来い。」
サーチライトの光の陰から一人の男がおずおずと顔を
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