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王道を走れば:幻想にて
幕間+アリッサ:酔いどれの悪夢 その2
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、一向に追撃の手は来ず、瞼をちらりと開ける。アリッサは男に何の興味も示さず、部屋を出て行ってしまっていた
 一瞬茫然とした様子をしたが、男はすぐに意気を取り直し、開け放たれた扉へと近づく。

「馬鹿め!!俺を見逃すとは、なんと愚かな選択ーーー」

 部屋を出ようとした瞬間、鉄拳が飛んできて男の鼻っ面を直撃し、彼を失神させた。不良品の玩具を見るような眼つきで男を見下ろしたアリッサは、ついと目を逸らして廊下を駆けていく。散々に暴れ吐くものを吐いたためか頭が妙にすっきりとしており、自分が追い掛けるべき目標を漸く見定めたようであった。
 廊下を進むと倉庫らしき所があり、どうやらそこから通用口へと繋がっているようだ。

「はぁっ・・・はぁっ・・・何処だ!一体何処に行った、あの男は・・・おのれぇ・・・」

 控室から此処に至るまでに幾つか部屋があったが、どの部屋にも人影や人の気配は見当たらなかった。つまり、あの変態的な盗人は、この通用口を通って外へ出て行ったという事。
 アリッサは息を切らしながら進もうとするが、酔いがぐらりと頭を揺さぶり、少し足が縺れてしまう。その際に水の入った樽に手を掛けるが、バランスを崩した樽が倒れかかり、それに釣られるようにアリッサも地面に倒れた。ばしゃあっと水が床に毀れ、髪がはらはらと解れて水に浸かった。

「くそぉ・・・ひっぐ・・・うぅ・・・」

 情けない嗚咽を漏らしながらアリッサは立ち上がり、目元を拭いながら通用口へと進み、そこから外へと出る。どうやら館の裏門に回ったようだ。商人や富を得た冒険家らが住む、品の良い住宅が立ち並んでいる。幾つかの場所には賊除け用の篝火が焚かれており、道を明るく照らしていた。

「私は、諦めないぞ・・・」

 アリッサは鎧を鳴らしながら道を駆け出す。目前に現れる道は、まるで希望の如く彼女の行く末を讃えているような感じがした。



ーーー捜索から一時間後ーーー


「どうしようっ、あれをなくしたら、私・・・!」

 現実は非情であった。北東部の高級住宅地や東部の色町周辺を粗方探し回ったのだが、男はおろか、道には人っ子一人いなかった。それで北西部へと足を向けていたのだが、そこでもお探しの人物は見当たらなかった。偶に夜警や鼠が徘徊するだけなのである。変質者や賊徒すら夜道を歩いてはいなかった。
 ひっきりなしに歩き、走ったためか、足にも大分疲労がたまってしまい、酔いも合わさって何時もより疲れているように感じる。一軒の宿屋の軒下に座り込むと、手の内に存在しない手応えに、嗚咽が込み上げてきた。

「うぅ・・・うぅっ・・・」

 目頭が熱くなって泣き出したくなる。何と情けない事だろう。これはバッジ一枚に欲を出して兵士を脅した報いなのだろうか。そうだとしても自
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