アインクラッド 後編
過ぎ去った時間、消え去った影
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顔を向ける。
「もし気が変わったら、わたしに言って? 紹介くらいだったら、いつでもできるから。……やっぱり、こういうお祭りは皆でやった方が楽しいしね」
「……祭りだって……?」
理知的なハーフリムの向こう側でマサキの瞳が細まり、笑いながら話すエミを睥睨した。抑揚のなかった声に、隠し切れなかった感情が滲む。
「あ、えっと……何か気に障ったのなら……」
「ふざけるな……!」
わけが分からずに怯えた表情で数歩後ずさるエミの謝罪を、マサキは溢れ出した感情で遮った。沸き立つ情動の渦が身体中を駆け巡り、それを押さえ込もうとする腕と奥歯がギリギリと震える。突然の変化に驚くエミは、取り繕うための言葉を探して視線を泳がせる。
居心地の悪い沈黙が二人の間に横たわる中、マサキはエミを睨んでいた目線を側めると、落ち着きを取り戻したように見える声色で言葉を発した。
「……遊びじゃないんだよ。少なくとも、俺の目の前で半死半生の猫が入った箱が開けられる、明日までは」
降り積もる雪に溶け込んだマサキの声が、周囲の雪と同じ冷たさを持って響いた。マサキの瞳が何かの余韻を探すように伏せられる。そして、転移結晶を取り出しながらエミに背を向けた後、彼女の前にフレンド拒否のウインドウが瞬いた。
「……フレンドは取ってない。悪いが、他を当たってくれ。……転移、ウィダーヘーレン」
それだけを言い残し、マサキの身体は青白い光と共に消え去った。後に残されたエミは、消えゆく残光と雪に埋もれていく足跡とを、ただ呆然と眺めていたのだった。
漂白された視界が開けると、そう広くないレンガ造りの道の端に、今もなお降り続ける雪が掻き分けられていた。その雪の山を更に挟んで、十軒程度の家が立ち並ぶ。
第二十四層の西端に位置している圏外村《ウィダーヘーレン》。十数軒程度のレンガ造りの家が集まった集落を、そこそこ広い針葉樹林が囲んでいる。主街区からの距離も遠く、近くに何らかのスポットがあるわけでもないため、誰にも見向きもされていない。
マサキは中心街(とは言っても、民家と最低限のアイテムショップがほんの十軒程度集まっているだけだが)を抜けると、村の端、針葉樹林の脇に忘れられたようにぽつりと建っている、一軒の家へと向かった。
ギシギシと心許ない音を立てる木の扉を開けて中に入ると、白を基調に誂えられたリビングが姿を現す。生活感のない部屋の奥には暖炉が設置されているが、使われた形跡はない。
マサキはソファーに腰掛けることも、寝室へと通じる部屋のドアを開けることもなく、部屋の隅に置かれた木製の棚へ向かった。そこで消耗した回復アイテム類を補充すると、装備の確認をして再び立ち上がり、棚の上
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