崑崙の章
第7話 「いっただっきまーす!」
[5/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
りまして……最後のところに落款が押されていません」
そう。
本来ならば、刺史などの公文書には必ず押されなければならない落款。
これがない文章は、あからさまな偽造である。
だが、この書状にはその落款を『あえて』押さないようにした。
もちろん、ここは城の内部。
落款は、この白帝城にもちゃんと保管されている。
そしてそれは目の前にいる文官の立場であれば、いくらでも利用できる。
にもかかわらず、俺はそれを押させなかった。
その理由は……
「ですので最初、それが偽造ではと疑われもしました。ですが……」
俺が黄忠さんを見る。
「この城にいる全ての官と兵は、黄忠様をお信じになり、それを劉表様の直筆である、とお認めになりました。そして、黄忠様は錦帆賊を捕らえたのです」
「………………」
「全ては劉表様のご慧眼の通りになりました……ただ、その書状には落款が未だ押されておりません」
「………………」
「………………」
劉表は、書状と俺の顔をその冷徹な目で交互に見やる。
俺は、張り付いたような微笑でそれに応えた。
正直、自分でも分が悪い賭けだと思う。
だが全部が全部、だれの被害もなく場を納める手はこれしかないと思ったんだ。
だから……あとは結果のみ。
「……確かに、これでは偽物よな」
劉表がそう呟く。
……だめか。
「儂としたことがうっかりしたわい……おい、落款をもってこい」
!!
劉表の言葉に黄忠さんも厳顔さんも顔を上げた。
目の前の劉表は、ニヤリと笑う。
「全ては儂があらかじめ仕組んでいたこと……厳顔を呼んで助勢させることも黄忠の助力をさせるために、儂が仕組んだこと。つまり、このたびの功績は全て儂の思惑通り。そうじゃな?」
「は……は! 劉表様のご慧眼と深慮遠謀! この北郷、感服いたしました!」
うし!
賭けに勝った!
「そうか、そうじゃったな……黄忠。大義であった。厳顔よ、苦労をかけたの。おぬし達の功には存分に報いよう」
「「もったいなきお言葉です!」」
黄忠さんも厳顔さんも、頭を下げて礼を述べる。
ふう……
なんとかなったか。
「ふむ……そちは北郷とか言ったの。お主にも褒美をとらす。ちこうよれ」
「は……いえ、私はなにも……」
「よいよい、ちこうよれ。褒美に盃をとらす。それぐらいならばよかろう?」
盃……酒を飲めと?
まだ昼間なんだが……まあ、一杯ぐらいならいいか。
俺は劉表の前で跪き、盃を受け取る。
そして劉表が酒を注ぎつつ……俺へと耳打ちした。
「下手な理屈じゃが……まあ乗ってやろう。次はもう少しマシな理由を作っておくんじゃぞ」
「
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ