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アイーダ
第二幕その八
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「娘よ」
「お父様」
「どうしたのだ、一体」
「いえ」
 後ろから自分の両肩を優しく抱く父に対しても項垂れたままであった。
「何でもありません」
 項垂れたまま述べる。
「そうか。しかしだ」
 そんな娘の心の中まではわからないがそれでも言った。
「案ずることはないぞ」
「どうしてですか?」
「わしに考えがあるのだ」
「お父様に?」
「そうだ、エチオピアを救う為にだ」
 彼は王として語っていた。それは今のアイーダには届かない言葉だったがそれには気付かない。
「その為に。見ているのだ」
「そうですか」
「だからだ」
 優しい声と顔になる。父のものであった。
「案ずることはないぞ、御前は」
「わかりました」
 一応はその言葉に頷く。しかし。
(もう私の幸福は)
 ラダメスのことしか考えられなかった。だがもう彼を見ることさえできなくなっていた。
(何処にも)
(何故神々は私からアイーダを)
 ラダメスもまた同じであった。項垂れて歓呼の声の中にいた。
(奪っていくのか。ただ一つ欲しいものだというのに)
「将軍」
 そんな彼にアムネリスがにこやかに声をかけてきた。
「王女様」
「もうすぐ私は王女ではなくなります」
 ことさらにこやかに述べる。
「貴方の妻に」
「私の妻に」
「そうです。宜しく御願いしますね」
「はい」
 項垂れるのをなおしてこくりと頷く。
「わかりました」
「私は今全ての幸福を手に入れました」
 項垂れるアイーダを見て言った。
「この世にある全ての幸福を」
 歓呼の声は自分に向けられているのだと感じながら。今そこに彼女は悠然として立っていた。項垂れるしかないアイーダを見据えながら。

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