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無明のささやき
第十八章
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の切なそうな泣き声を聞いて、飯島は自分の身勝手な激情を悔やんだ。
「申し訳ない。どうも君と俺はすれ違いばかりだ。本当に申し訳ない。」
飯島は章子の心が落ち着くのを待った。しばらくして、章子の泣き声が止んだ。
「それから、信じられないことだが、昨日、南が死んだ。そして西野会長も。テレビによると南の女房は一ヶ月の重症だそうだ。」
「何を言っているの、あなた。それどういうこと。会長が、南が死んだですって。何故、信じられない。」
章子の所憚らぬ嗚咽に、飯島も思わず涙を誘われた。飯島は西野会長と共に歩んだ日々、懐かしい時代を思い出していた。その一コマ一コマが走馬灯のように目の前に浮かんでは消えた。
 飯島だけではない、誰もが、この20年、西野会長と共に歩んだことに誇りと喜びとを感じていた。皆、彼の心意気に燃えたのだ。会長は常に営業の最前線に立ち、社員一人一人に話しかけ、勇気付けた。それが営業マンを奮い立たせたのだ。
 その会長が、実は大リストラの実行者だった。息子と南を裏で操り、彼に忠誠を尽くした男達を裏切り続けたのだ。飯島の脳裏に倉庫で黙々と作業する哀れな男達の姿が浮かんだ。そんな苦い思いを押し殺して口を開いた。
「本当に信じられないことばかりだ。西野会長を殺したのは佐久間だ。あいつは狂っている。」
章子が答えた。
「ええ、佐久間が狂っていることは確かよ。あの人は或る時期から本当に狂ってしまったの。あのリストラからよ。最後には暴力をふるうようになったわ。」
「そうか、そこまで行ったのか。ところで、今日、会えないか。どうしても話しがしたい。」
「駄目よ、貴方は自由に時間はとれるでしょうけど、今日は残業になるの。でも明日はお休みよ。朝10時頃電話するわ。この携帯にかけるわ。」
「ああ、わかった。待っている。どうしても聞いてもらいたいことがあるんだ」
飯島は電話を切った。

 翌朝、飯島は池袋のビジネスホテルで寝ていたが、携帯電話の呼び出し音で起こされた。章子だと思い、携帯を耳に当てると、意外にも佐久間の声が響いた。
「おい、飯島。もう朝だ、起きろ。」
「おい、おい、佐久間さんか。良かった、あんたと話がしたかった。」
「俺は話などしたくない。何故、お前の携帯の番号が分かったと思う?」
飯島は最初、質問の意味が分からなかった。だが、すぐに思い当たった。新しい携帯の番号を知っているのは箕輪と章子だけだ。
「おい、佐久間、章子さんに手を出したら許さんぞ。愛子ちゃんのことも考えろ。」
佐久間が怒鳴った。
「愛子のことなんてどうでもいい。いいか、章子は、ここにいる。声を聞かせてやる。」
しばらく呻き声が聞こえた。その後、はっきりとした章子の声が響いた。
「飯島さん、この人は本当に狂っている。助けて、お願い」
ここで受話器が章子の口
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